Hey Siri! 〜内転筋を鍛える〜
歳を取ったら運動をしなければならない。
フレイル(虚弱)対策に動かねばらないと知識では知っている。
だが幼少のみぎりより運動が苦手。そして熱血体育教師のご指導を賜ってすっかりキッパリ心底嫌いになってしまった。
運動音痴は生まれつき運動神経の良い人にはわからない苦労を背負っていると個人的に断言したい。
どれほど揃った集団行動ができるか否かで何かと計ることの多い学校教育では辛かりしことおおかりき。マジで。
だがその分大谷を見て心から楽しめる。もし何か少しでも才能があったら「なぜ俺は大谷じゃないのか?」と悩んだり妬んだりすることもあろうかと(勝手に)推察する。だが同じ人類であっても端から交わることがなければただ仰ぎ見るだけだ。
仰げば尊し大谷翔平。
しかし体育授業や熱血教師から解放されて思う存分グータラを堪能している場合では無くなってしまった。
気がつけば躓きやすくなり、運動がどうのこうというより安全問題に関わる。
NHKみんなの体操やYouTubeのラジオ体操を気が向いたらやっていたが。それじゃダメらしい。古来から言われるように継続こそ力であるらしい。
うん、知ってるけど。
もともと動きたくないので、やらない理由はあっという間に100ぐらい思いつくのである。
地域でやっているシニア体操教室にでも通うかなあと思うが、熱血指導だったら嫌だなと逡巡する。
こら、そこの人、真面目に!
もっと手を伸ばして!
指先までびっしとしなさい!
できないじゃなくて、やるんですよ!
気合いだ気合いだ気合いだ !
などと言われたら、泣いてしまう。それでなくても涙腺の弱いお年頃で、人目も憚らず号泣するかもしれん。もしくは切れやすい年齢なので逆ギレして問題行動に及び、ご近所に顔向けならなくなり引っ越しを余儀なくされるかもしれない。お年寄りが丸くなるというのは嘘だとその年齢になれば思う。体力がないので逆に我慢が効かなくなるのである。
シニアに熱血指導なんて命が危険だから多分違うと思うが、こういうところで昔の心の傷が疼くの。過剰な体育授業で運動嫌いを作らないことが長期的展望に基づいた究極のフレイル対策になると提言したい(何故か偉そう)。
運動嫌いはまず動き出しができないのである。
そしてこんな時でさえ、楽をしようと考える運動嫌い。
ネットやテレビでもよく宣伝しているサントリーロコモア。あれを飲んだら何もせんでええのかな? と思うが高額バイトと同じで世の中そんな上手い話はないだろう。
うーんうーんと悩んで、「Hey Siri!」とSiriさんに色々聞いたところ、とりあえず「内転筋を鍛えよ」というお告げをいただいた。(Siriは「ないてんすじ」って言ったよ。一瞬おでんの具かと思った)
内転筋かぁ。確かに見た目からヘロヘロである。確かにこれは「ないてんきん」というより「ないてんすじ」だなとSiriに同意する。
YouTubeで内転筋を鍛える運動などいくらでも出てくるが、スクワットなど極悪女王の世界じゃないかとビビる。
極悪女王は無理でも宮本浩次みたいに動きながら歌えば内転筋が鍛えられそうだなと思うけれど、そちらもハードだ。想像するに彼は多分とても内転筋が強いだろう。
テレビを見ながら内転筋を鍛えるとか、とにかく楽なのはないのか? とズボラー思考で、あれこれと内転筋を鍛えるグッズを探しはじめる。多分そのグッズはすぐに打ち捨てられることになるだろうと分かっていながら探してしまう。何十年これで生きてきたのか。人は過去に学ばない生き物なのである。
きちんと自己管理できたり運動が好きな人は、自力でスクワットをし、もしも何かしらの道具を買ったなら、現役引退まで7,500円のグラブを使い続けた新庄監督のように、最後まで使うだろう。そんな立派な人に私もなりたかったけど、もう無理。
それでももし使わなくなってもそんなに邪魔にならないものがいい、とか、粗大ゴミにならないサイズにしようと考えるだけ少しは成長していると思いたい。
で、買ったのがこれ。
にゃんトレ ミケ。
メーカーの株式会社サイプラスさんの説明によると
「かわいいネコのぬいぐるみを太ももに挟んで内転筋や骨盤底筋を鍛える筋トレグッズ。」
使わない時は、枕に使ってもいいし、置きっぱなしでも可愛い!とメーカーさんも言っておられる(使わなくなることを見越している素晴らしい優良商品)。
ぬいぐるみって写真と実物のお顔が違うこともままあるのだけれど、これは大丈夫。可愛らしい。猫というより商品用途の性格上形は丸まるとした子豚ちゃんで、刺繍の尻尾はこれまた子豚よりだが十分愛らしい。
可愛くないのはその硬さだ。
膝の間に挟んでぎゅーぎゅーやると、内転筋を鍛えるどころか、お尻の肉が攣りかけた。
これぞまさしく「へい(頑張れ) しり」だ、なんつってと歯を食いしばりながらぎゅーぎゅーを頑張る。しかし口でぎゅーぎゅーいうばかりで足は弱々と閉まらない。
まずいぞ、私。
まずいぞ、へい しり。
それでもぎゅーぎゅー掛け声をかけながら三日ほど続けるとミケちゃんが柔らかくなり楽になった。たった三日で内転筋が鍛えられるわけはないので、ミケちゃんの方がソフトになったのだろう。
これも成果だ。
それでもやっぱりきついことには変わりないが、今のところテレビを見ながら続けてはいる。
頑張れ、私。
頑張れ、へい しり!
内転筋どころか、お尻の筋肉までプルプルさせながら、とりあえず今日も猫をぎゅーぎゅーと締めつけている。
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