少年に魅せられた日
その少年は
暗く衰退してゆく将棋界に
一筋の希望をもたらした。
その少年は
何かが違っていた。
華奢なその身体を包み込む
黄金の光は
未来へと続く架け橋のように
部屋全体に広がっていた。
私はすぐに彼の事を調べた。
名前
そして誕生日
やはりそうだ!
将棋のルールさえ知らない私を
一瞬にして虜にしたその少年は
取り囲むカメラのフラッシュに
はにかむように笑いかけながら
でも
スッと真顔に戻る
彼の将棋は美しい!
まるでマジックのように鮮やかで
観る者の予想を覆し
その高速の踏み込みは
神の領域を思わせる
私は夢中になり
彼の本を片っ端に読み漁った。
そして彼の対局日には
朝からテレビの前に正座し
対局が終わる夜半まで
一時も目を離さず彼の指す手を追った。
世間の喧騒をよそに
彼は何かに憑かれたように
81マスの盤に向かう
そして
深く深く
盤の奥に広がる世界を探る
彼が、羽生善治という偉大な棋士の
タイトル99期の偉業を抜き去る日
その日は必ず来るだろう。
私は
その立派に成熟した彼の姿を
見ることが出来るだろうか
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