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休校期間の学童保育への弁当配達ー3つの壁に障がい者施設としてどのように向き合うかー

学校がお休みになると給食がなくなるため、こどもの昼食を用意する家庭の負担が大きくなります。そこで、仙台市こども若者局が主管となり学童保育を行う児童館へお弁当を配達するモデル事業が立ち上がりました。当法人では、利用者のみなさんの工賃向上だけでなく、こどもと接する貴重な機会と捉えプロジェクトに参画することにしました。一方で、市役所や企業に向けた弁当の製造販売とは異なる難しさもありました。本稿では、障がい者支援の事業所が児童館へお弁当配達をする意義と向き合ってきた3つの壁についてお伝えします。

給食がないこども、仕事がある保護者

コクリコ(2024)の調査では約8割の母親が負担があると回答しています。多忙に働いている中でこどものお弁当を作るのは大変です。かといってコンビニ弁当を買って済ませるのも気が引けるという声もあるようです。

学校給食の経緯と課題

学校給食の発祥は明治22年に遡ります。山形県鶴岡町(現在は鶴岡市)の僧侶が貧しいこどもにおにぎりなどを提供していたとの記録があります。戦後には栄養バランスの取れた食習慣を教育の一貫として「食育」という言葉が生まれ、あまねく学校の児童に提供されるようになりました。学校給食が普及することで共働きがしやすくなり、現在では子育て家庭のインフラのひとつと言っても過言ではないでしょう(仙台市「学校給食のあゆみ」参照)。
一方、学校には夏冬春と長期の休校期間があります。この間、保護者のみなさんは学校がない時間のこどものケアや昼食の準備をしなければならなくなります。テレワークなどが少しずつ普及してきているとはいえ、多くの家庭において負担の解消には至っていません。

弁当配達プロジェクトの開始

そこで、2023年に仙台市のプロジェクトで児童館への弁当配達が検討され、当法人の弁当製造販売を行う2つの就労継続支援B型事業所でトライアル実施をすることになりました。日常、「ぴぁ」「まどか」という二つの事業所で弁当を製造し、県庁や市役所または企業などで販売をしています。利用者のみなさんがそれぞれ担当を持ち、毎日活動をしていますが、児童館への配達事業には乗り越えるべき3つの大きな壁がありました。

クリスマスに配達したお弁当(上:高学年用、下:低学年用)

第1の壁:親の「食べさせたい」とこどもの「食べたい」を両立

保護者にとっては、バランスの良いヘルシーな食事の安心感が必要です。これまで添加物などを使わずに手作り弁当にこだわっていますが、さらに、アレルギー表示など細心の注意を払っています。一方、児童のみなさんにおいしく食べていただくには、味付けや見た目を変えるなどメニューのアレンジが必要です。こども向けでは軽く明るい色合いの弁当箱を選び、低・高学年でサイズを変えました。そして児童館でのご意見を伺いや残食チェックなどにより改善を行っています。

第2の壁:現金受け渡しは不可!「完全キャッシュレス対応」

普段の弁当販売ではその場で現金をいただき、お弁当を渡しています。しかし、児童館ではこども全員が現金の授受をすることは難しく、キャッシュレス決済が必要となりました。そこで、外部の決済システムを導入し、クレジットカード払いで事前注文いただく方式にしました。金銭管理の業務から職員を解放し効率化を図る側面もあり。保護者の方も次第に注文操作に慣れていただき、運営がスムーズになってきました。

第3の壁:ワンコイン(500円)で提供できる「価格設定」

学校給食は大量調理でもあり、とても安い価格で提供されています。しかし、現実には食材費や配送コスト、人件費、キャッシュレス決済手数料などを積み重ねると相応のコストになります。添加物不使用と手作りにこだわりながらの提供には困難がありました。それでも、複数の隣り合う児童館の配達を引受け、効率的な配達ルートを設定しました。仙台市の支援をいただき協議を重ねながら1食あたり500円以内で提供できるようになりました。

障がい者支援事業所が児童館へ弁当配達の意義

障がい者支援事業所が児童館へ弁当配達をする今回のプロジェクトについてその意義について考えてみます。
第一に、学校給食がない期間に家庭での弁当準備の負担を軽減できることです。お弁当を注文いただく保護者や児童館からも「本当に助かっている!」という声を聴いています。弁当製造をしている福祉事業所も多くあるため、民間企業だけではカバーできない部分についても就労活動として取り組むことが可能です。成功事例を作っていくことで他の事業所の参加が促され、カバーできる範囲が広がる可能性があります。
第二に、障がい者支援と児童支援を同時に実現できることです。就労支援事業所としては弁当販売の利益が利用者のみなさんの工賃の原資となります。障がい者支援事業所と児童館の協働により、普段接する機会の少ない障がい者とこどもがコミュニケーションするきっかけが作れることは大きな意義があります。
第三に、フードロス解消と環境配慮に貢献できることです。事前注文をいただき配達することで、販売での売れ残りのような廃棄ロスを防ぎ、弁当箱をプラスチック容器など使い捨てではなく回収容器にすることで、環境にも配慮した弁当となります。地球レベルでみれば影響は小さいかもしれませんが、地域レベルでできる小さな積み重ねが購入してくださる方の意識にも届くのではないかと考えています。

児童館での配達

初の試みとして取り組みについて、各児童館への訪問や保護者・児童の皆様からのアンケートなど多くの声をいただきました。「弁当づくりは大変なので助かる」という声を多くいただきました。一方、メニューや注文方法などを含めご要望やご期待の声も頂きます。それだけ、お弁当が大事なものだと捉え、一歩でも改善できるように取り組んでいます。

現在、仙台市内には113の児童館がありますが(2024年11月現在)、2024年度で弁当配達をされている児童館は未だ44館となっています。未だ超えなければならない壁はありますが、取り組みの意義を踏まえながら、持続的に実現できる事業にしたいと考えています。


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