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ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』の世界にたゆたう

『ウェストサイド・ストーリー』なら、冒頭の街中でのダンスシーン、ジョージ・チャキリスの超有名なY字バランス。
『サウンド・オブ・ミュージック』なら、やはり冒頭、大自然の中でのジュリー・アンドリュースの伸びやかな歌声。
『ミス・サイゴン』なら、サイゴン陥落シーンのヘリが登場する演出。

こんな具合に、ミュージカルといえば
 ♪ ドラマチックな歌
 ♪ ダイナミックなダンス
 ♪ 喜怒哀楽の感情を揺さぶる筋立てと演出

というイメージがありますよね。

ところがこのたび、物語の内容もビジュアルにも派手な仕掛けはなく、中東音楽のエキゾチックな調べにのせて、「退屈な日常に、ふと異国の風が吹き抜けた」一日を繊細に描き出す、異色のミュージカルを観ました。

東京の老舗劇場の一つ、日生劇場で上演されている
『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』です。

以下、ネタバレありです。

日生劇場の看板

公式サイトよりあらすじをご紹介しましょう。

エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊が、イスラエルの空港に到着した。ペタハ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するように招かれた彼らだったが、いくら待っても迎えが来ない。誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員が聞き間違えたのか案内係が聞き間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地とよく似た名前のベイト・ハティクヴァという辺境の町に到着してしまう。一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがないという。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客と従業員の店に分散して泊まるように勧める。
かくして、言葉も文化も異なる隣国の人間達が、一夜交わることとなった。

出演者の中に、大がかりな「ザ・ミュージカル」に出ているような著名なミュージカル俳優は少ないのですが、皆さん、味のある歌とお芝居で、観客の心をじんわりと温めてくれました。
そして勿論、ミュージカル俳優として日本屈指の実力を持つ濱田めぐみさんと新納慎也さんは、素晴らしい「芝居歌」で会場を魅了。
特に新納さんの歌の冒頭
「♪ 氷は割らず 溶かすのさ 自分を溶かせ 水たまりになれ …」
が、何だか心に響きました。

母語の訛りが強いブロークン・イングリッシュで何とかコミュニケーションをとろうとする登場人物たちのやりとりのおかしさに客席が大受けし、オフブロードウェイからオンブロードウェイに進出、2018年にトニー賞10部門を独占するに至ったアメリカの舞台。これを日本版として上演するにあたって様々に工夫されており、その世界観に心地よくたゆたうひととき、といった趣でした。

・基本、国籍の異なる音楽隊員と町民が、母語ではない「共通言語の英語」として日本語の台詞を話す(ところどころ、両者とも母語が飛び出す)という方法を採用
・廻り舞台と、素敵な赤色をした抽象的な装置を駆使したスムーズな進行
・本物のミュージシャン数名が警察音楽隊員として舞台にあがり、劇伴音楽も演奏
・エジプトとイスラエルの位置関係や根深い対立の歴史など、舞台の背景、豆知識を簡潔に説明した無料のチラシをロビーで配布

などなど。
出演者は無論のこと、スタッフ・関係者一同の「腐心」の程が偲ばれます。

ただ、物語上の人物造形の点では残念ながらちょっと弱いかな。演技というよりも脚本や演出の問題だろうと感じました。
大道のミュージカルならば、歌やダンスの迫力のお蔭で、多少の物語の粗は気にならない所ですが、この作品の場合、繊細な機微が描かれる部分こそが大切な魅力なので、作劇上の弱点が目に付きやすいのかもしれません。

迷子になった音楽隊員たちを数か所に分散して泊めるという流れから、それぞれの場での一夜の異文化交流が描かれるわけですが、そのいずれも、男性に比べて女性の登場人物の言動がやや唐突というか、ぎこちない展開に見えてしまいました。
とりわけ、本作一番の肝というべき、主要な役どころ3人(風間杜夫、濱田めぐみ、新納慎也)の「大人な関係」。幼い頃からアラブに憧憬を抱くも、今は退屈な町で閉塞感を抱えているディナの、二人のアラブ人男性に対するそれぞれの心情が、いまひとつ伝わりにくい憾みがあります。
まあ、私が精神的に「おこちゃま」なせいで、読み取れないだけなのかも、ですが…

とはいえ、「終わり良ければ総て良し」!
本編のラストシーン。本来行くべき場所に向けて出立する警察音楽隊と町民との間で交わされる小芝居が、何やら意味深だったりチャーミングだったり 余韻が感じられてよかったです。
そして、カーテンコール前の、音楽隊による演奏で総仕上げ。舞台も客席もノリノリでした。
私が観た回は、終演後に警察音楽隊員役のミュージシャンによるスペシャルライブがあり、聞き覚えのあるイスラエル舞曲「ハヴァ・ナギラ」などで、もうひと盛り上がり(そう2月16日、ニイロの日でもありました!)。
とても楽しい気分で劇場を後にしました。


観劇前のランチは、劇場から程近い日比谷ミッドタウンの「パティスリー&カフェDEL'IMMO」にて。
ポルチーニ茸とイチジクのピッツアに、セット・ドリンクは季節メニューのイチゴのノンアルコールカクテルをあわせました。
濃厚な風味のクリームソースが美味しい熱々ピッツアと、鮮やかな色合いのドリンクに大いに満足したランチでした(^^)/

日比谷ミッドタウン デリーモのランチ


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