映画「スワンソング」~ファンキーな白鳥の歌♪
ファンキーで美しく、何とも痛快なアメリカ映画を観ました。
チラシに謳われている通り、「実在の人物をモデルにしたハートフル・ロードムービー」です。
以下、少しだけネタバレありです。
「スワンソング」(白鳥の歌)とは…
白鳥は死に瀕したときに、最も美しく歌うという言い伝えから、人が亡くなる直前に人生で最高の作品(特に詩歌や歌曲)を残すこと、またその作品を表します。
現役生活をとうに退いて老人ホームで暮らす、元カリスマ美容師でドラァグクィーンでもあったパットの元に、かつての顧客で旧友にして、町で一番の金持ち、リタからの思わぬ依頼が寄せられる。その依頼を受けるか否か迷いつつ、パットは老人ホームを抜け出し、昔華やかに活躍した場所に足を踏み入れる。様変わりした町で、旧知の間柄の人、あるいは思い出の場所に今いる人との様々な邂逅を重ねながら、過去の思い出やわだかまり、現在の心境と向き合うことに。
果たして彼の誇り高き「スワンソング」とは…
パットを演じたのは、アクの強い役を得意としているらしい(寡聞にして、この俳優さんを存じ上げませんでした)俳優、ウド・キアー。目力といい、鮮やかなミントグリーンの衣装の着こなしといい、パットの性格やこだわりを表す、ちょっとした仕草といい、見事な怪演、老練の名演技でした。
(小さなエピソードの数々を細やかに描くことで、登場人物のキャラクターを際立たせる脚本の力も大きいですね。)
老人ホームの場面の、冴えない灰色のスウェット姿でいてさえ、些細な言動にバリバリと只者ではない雰囲気を醸し出して、客席の微苦笑を誘います。ホームを抜け出してからは加速度的にパワー増しましで、微笑ましいやら、ハラハラするやら。
湖のほとりで幻の旧友と語り合っている時に、現代のゲイカップルが幼い子をあやすのを見る場面や、ゲイバーのステージで昔と同様スポットライトを浴びて喝采を受ける姿、そしてリタの孫息子とのやり取りには、脚本・監督のトッド・スティーブンスの、ゲイ文化へ寄せる愛情が感じられます。
パット曰く「靴だけは趣味がいい」リタからこっそり拝借したハイヒールがスーツのズボンから覗いていて、それを見つけたリタの孫がクスリと笑う、終盤のカットは何だかお茶目で和みました。
キアーは今回、「お芝居をしないお芝居」を目指したと言います。生前のパットを知る人に実際に会って、たばこを吸ったり足を組んだりする仕草を採り入れたり、物語の流れに自然に身を委ねるために、監督に「順撮りでやらせてほしい」と頼んだりして、この演技に臨んだそうです。
「現場で初めて衣装(ミントグリーンのスーツ)を見て、とても気に入った。その日の撮影が終わっても脱ぎたくなくて、衣装のまま、劇中のパットと同じく通りを歩いてバーに入った」というエピソードが、またいい(^^♪
キアーがあまりに凄すぎて、他の出演者の印象は正直薄いのですが、パットが訪れる洋服屋の女性店員の表情の豊かさ(本当に可愛かった!)と、パットの手になるリタの「旅立ちの姿」の清らかな美しさは心に残りました。
音楽も良く、中でもアレンジの効いた「ダンシング・オン・マイ・オウン」
が、宇野昌磨(フィギュアスケートの演技で、3年ほど前にこの曲を使用)ファンの私には格別に響きました。
「アプローズ、アプローズ!」、「川っぺりムコリッタ」、そして今日の「スワンソング」と、「生(と死)」のありようを考えさせられる映画鑑賞が最近続いています。
「死」が訪れるその時まで、自分の感受性を大切に生きようと、改めて思う2022年の秋です。
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