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花びらに願いを込めて



秋が手招きしている。
夕暮れを歩く、肌に伝う風は、寂しさをつれてきたし、空はいつもより、高い。
薄くすじを描いた雲は
桃色を手のひらでなぞって、
季節の交代を教えてくれる。

今日は心地が良い。
そう思った。

帰って映画の続きをもう一度見よう。
夕飯は何にしようか。

もう一度、空を眺める。
思い浮かべるひとがいる。

私には、会いたいひとがいる。
時々、胸が苦しい。
気持ちを心の隅っこに押し込める。

一晩考えた。
時々息苦しくて、目が覚める。
ずっと口の中に悲しさを噛んでいた。
カラカラの喉に、麦茶を注ぎ込み、もう一度布団に入る。考えがまとまらない。

もう一度布団から起きる。
読みかけの小説を開く。
しおり、はさむの忘れた。
パラパラと、ページを捲る。

あ、
桜の花びらが一枚。

私は会いにいく理由を探していた。
明日、わたしはあのひとに会いにいく。


緊張する。
なんて、思うだろうか。急に来て。
いや、わたしのことなんて、
見えてないのはわかってる。

待ち合わせは、神楽坂。
と、勝手に私が押しかけている。

わたしは来てしまった。
会いに。
あのひとに。

家の鏡の前で、
何度もくるくると、まわる。

抱きしめられた時に傷を作らない様に。
わたしに触れたいと思ってくれる様に。
柔らかな生地のブルーのタンクトップと、
花柄のスカート。
あのひとにはどう見えるだろうか。


わたしは、言い淀んでしまう。
うまく、話せなかった…
今日は、30...分でいいです…

まの抜けた、瞳は、
私の心の透度をあげてくれる。
柔らかな毛は優しさで構成されている。

時々振り向いてくれるし、
耳筋にキスしてくれる。

ゆっくり歩いて、ゆっくりとターンする。
全身にふかふかな優しさをのせて。
わたしの肩に顔を乗せる。

ときめきってなんですか?っと、
医学博士に聞いたことがある。

「アドレナリンの自覚症状、いわば動悸です」
と、言われたことがある。

そんなんじゃないよ。
誰かを好きって、会いたいって思う気持ちに、名前をつけることなんかできない。
と、わたしは、そう思う。

はい、おしまいです。



帰りの電車で、
同じ小説の間に、
桜の花びらがあることを確認した。

また、
わたしの背中を押してくれる様に、
願いを込めて。

またくるね、アルパカ。


アルパカふれあいランドは、
素敵なところです。

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