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憧れの街
2月9日。夜勤明けの深夜0時、8日の日付を跨いだそのころ、私は寝落ちしていたソファから頭を強打して目が覚める。完全に首をやってしまった。一人でひとしきりうずくまった後、何か違和感を感じて、慌ててポストにいくと、確かにそれは届いていた。
ずるいって!!しれっときとる!!
さんしさんの、
初の作品集「憧れの街」到着である。
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どうやって開けようか。
クリスマスプレゼントをもらう子供のようにバリバリと包みを明けたいが、一旦stay。
肺の残気量を全て吐いたところでハサミを取り出して、中の冊子に傷をつけないように、そーっと封筒を切り取った。
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お目当てのものは、少しずつ顔を出した。
いや、まだ早い。
心の準備ができていない。
私は一回それを封筒の中にそっと戻した。
肺の空気がゼロだったこともあり、
慌てて深呼吸する。
いざ!!
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とりあえず、一通り開いてみることにする。
でも文章は読まない。
あくまで全貌を見るだけだ。
パラパラ…
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まさか、コレは!!
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記事でもちろん読んでいたけれど、
さんしさんからの直筆のお手紙が添えられている。こちらは、予約してた方のみ…だったかな?
ちなみにもう一つ予約の特典が付いていた。
幸せすぎる〜♡
この裏側には、私のフルネームと、(M.eri様)と書かれていて、予約した一人一人に充ててくれただろうお手紙。お仕事の合間に大変だっただろうにと、胸が熱くなる。私は、和名たっぷりの自分の本名を悔いた…なぜこんなにも、角張った字面なんだろう。しかも、なかなか特殊な名前を持ち合わせているので、それをきっと間違えないように書いてくださった配慮に泣ける。お手紙何年振りかな。率直に嬉しい。とりあえず、本棚に納めてみる。
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うずうず。やっぱり読みたい。
じっくり読むと決め込んでいたのに、
私の中でスターターピストルの音が響いた。
読むしかなくねぇか…?
気付けばページは進んでいる。
ここは、どこだろうか。
彼が浦和から川口まで歩き進めたあたりだろうか…もったいなくて、一回読んだページを戻ったり、面白い文章の所をおかわりしながら読み進めていたはずなのに、明け方には読み終わってしまっていた。しかも、最後はまさかのスズキの書評で幕を閉じる。私はスズキもファンである。
さんしも、スズキも誰や?となったろう?
ポチってごらんなさいって。
にしても、紙媒体えーやーーん。
さんしさん、作ってくれてありがとー!
印刷の人ありがとー!
なんか色んな人に感謝の舞をしたい。
ここからは、真面目に、さんしさんの文章の魅力に触れたいと思う。
私は「さんし」という人間の日常の世界の豊かさに心底惚れ込んでいる。人間らしさを表すためには、自虐的な一面を放り込むことが最適解であるが、そこに到達するまでに、彼のフィルターに映る世界が宝物のように記されている。
例えばそれは食べ物であったり、学生生活であったり、仕事であったり、恋であったりと、私たちの日常と何ら変わり映えのないものであったとしても、その一つ一つを丁寧に描くエピソードが物語のように進んでいく心地よさと、キャッチーな言葉遊びこそが、その没入感を生み出す、さんしワールドの最大の魅力だろう。
(エピソードも大抵エッジが効いていて
秀逸なのも流石である。)
その没入感を紐解いていくと、そこには、周囲の人々への観察眼が研ぎ澄まされていることと、自身の繊細さを隠しながらも、
他者配慮という人間力にも結びついていて、
彼の纏う人柄に人は吸い寄せられていて、
平凡を纏う彼の底知れない人間の魅力を感じざるを得ない。
スペシャルフレンドとして登場するスズキ、も同じ女性とは思えないほどに自立した感性を持ち合わせており、互いのリスペクトを持ち、双方の魅力を十分に理解しつつ、信頼関係を結びながら、男と、女である立場関係を考察する姿は、何とも感慨深くて、とても正直で、親しみを覚える。
時折感じる空気感のエモさは、彼の感性を際立たせて、その上ですこしドジなエピソードや、男としての不甲斐なさのような描写は
読者をくすりとさせて、
さんしの可愛らしさを抱きしめたくなる
衝動に駆られる。
彼の正直さや、素直さは文章に溢れている。
文章の構成はさながら、
一人で漫談しているような旋律は、
読み進めていくたびに新鮮だ。
時にそれはアップテンポで、マイナーコードで、
文章の緩急は、読者を惹きつける。彼の紡ぐ文章は、非日常であり、
それを土地の名前を刻みながら、
確かにそこにはあった事実として共に歩んでいける存在感が私たちを安心して導いてくれる。
ここまでだいぶ真面目に語りすぎたが、終始爆笑してしまうエピソードは、必見だ。中でも、「最悪のオリオン座完成/御茶ノ水」は、私のお気に入りである。読んでみないとわからない。
彼が歩む人生の豊かさに、羨望の眼差しを送りたい。それでいて時折見せる人の人生の機微を綴りながらみかんより、さんしの奥ゆかしさに、どうしたって寄り添いたい気持ちが隠せない。自意識オーバードライブ系の彼は、最後東京について、哀愁を持って締め括っている。
彼にとっての「憧れの街」とは。
まだまだ、
彼が経験して肉をつけた東京の正体を、
私たちは一緒に感じたいと
願わずにはいられない。
久々に小気味いい
読後感を味わえたことを心から感謝し、
完成度の高さに驚くばかりである。
今後も私たちを楽しませてほしい。
楽しい時間をありがとー!
そんな感じです。
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