【みだれ髪】考察 『はたち妻』編 2
『俵万智訳 みだれ髪』第4章『はたち妻』の解釈、その2、 前回に続き解釈作業の折チェックした歌を何首か紹介します。
●今日を知らず智慧の小石は問はでありき
星のおきてと別れにし朝 (与謝野晶子)
◎牽牛と織り姫のように別れねばならぬ朝なり
心うしなう (俵万智 訳)
∇天界の星のおきてのように逢瀬を終える朝、
何事もなかったように貴方の持つ数珠は私た
ちの罪を問わないでいる。(我が解釈)
*難訓としてチェックしました。
下二句で俵さんが訳したように逢瀬を終える
朝を詠んだものとは理解出来るのですが、
上の句の「今日を知らす」と「智慧の小石」
が難解。
結局は「今日を知らず」を「何事もなかった
ふり」と言うような意味に取り、
「智慧の小石」は数珠と解釈してみました。
与謝野鉄幹の実家はお寺で晶子も彼を僧に例
えた歌を多く詠んでいます。
つまる所、逢瀬を惜しみつつ、恋の罪悪感を
詠んだ歌なのかな? と、。
若き晶子の苦悩を垣間見る思いです。
●春にがき貝多羅葉の名をききて
堂の夕日に友の世泣きぬ(与謝野晶子)
◎つい我は泣けり出家の友人は貝多羅葉の
ことなど話す (俵万智 訳)
∇貴方が貝多羅葉に友の名を書き読んで居る。
今でも彼女が忘れられないのですね。
春の夕日射すこの堂、わたしも彼女を思うと
いたたまれなくなる。(我が解釈)
*これも難訓としてチェックしました。
まず、貝多羅葉(ばいたらよう)とは
植物を加工して紙の代わりに用いた筆記媒体
の事だそうです。
友は晶子と共に鉄幹を師と仰ぎ、恋した
山川登美子の事。
彼女は意に添わぬ縁談の為、郷里へ帰って
しまうわけですが、その事を鉄幹共々惜しむ
心と嫉妬する心を微妙に詠んだ歌かと、。
●夕ぐれを花にかくるる小狐の
にこ毛にひびく北嵯峨の鐘(与謝野晶子)
◎夕暮れの桜の下の小狐の
にこ毛にひびく北嵯峨の鐘(俵万智 訳)
*ここからは良いなと思ってチェックした歌で
す。
この歌の解釈は俵さんと同じ。
写実的表現ですが童話的にまとめてあり、
可愛らしさを持つ一面が伺えます。
●みなそこにけぶる黒髪ぬしや誰
緋鯉のせなに梅の花ちる(与謝野晶子)
◎水底にけぶる黒髪の美女は誰?
緋鯉の背中に散る梅の花 (俵万智 訳)
*この歌も俵さんの訳に同意です。
己の美しさを詠んだナルシシズム的な歌だと
思います。
●秋を人のよりし柱にとがめあり
梅にことかゐきぬぎぬの歌(与謝野晶子)
◎いっぽんの柱が彼女を彷彿とさせて
あなたの心を奪う (俵万智 訳)
∇あの秋に彼女がもたれていた柱がもどかしい
今宵貴方はその柱にもたれて恋心を梅に
例えた歌を詠むのですね。(我が解釈)
*これは鉄幹または山川登美子への嫉妬心を
歌にしたものだと思います。
登美子が郷里へ帰る前、鉄幹と三人で過ごし
た京都の秋を二人で思い出しての事でしょ
う。登美子に同情しつつも揺れ動く心が
現れています。
以上5首をピックアップしてみました。