北
フライト中、半分以上は乱気流の中でがたがたと揺れていた。そうだ、必ずタービュランス、この路線。と懐かしく思い出す。この揺れは海峡の上空を飛ぶからなのだろうか。とにかく、10年以上ぶりで何もかも忘れていて初体験みたいなものだ。シャンパンも食事もそこそこに、シートベルトをしっかりと締める。
マルグリット・デュラスが『北の愛人』という小説を書いている。演歌のタイトルっぽい邦題ではあるが、中国東北地方出身の中国人男性との性愛を描いたもの。80歳を過ぎてから15歳のころの自身の恋愛を小説に書き上げてしまうなんて。私は、誰かと恋愛をしたかどうかすら、もう思い出せないのに。
降り立った北の空気は乾いていて素っ気なく、ランドを移動中も原野のような野原のような景色が流れてゆく。少しの間、この地で仕事をしながら滞在する。陽が落ちてしまうと、寒さに手足が悴んだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?