第265回、コード将棋王 マトリックス戦
20XX年日本が世界に誇る盤上の頭脳戦、将棋はさらなる進化を遂げていた。
通常の将棋のルールに、棋士達が持ち寄った独自のルールを追加させられるようになったのである。
追加するルールをコードと呼び、そのコードを適用させた将棋の事を人々はコード将棋と呼ぶのだった。
今コード将棋の頂点を決める、コード将棋王の決戦が始まらんとしていた。
「成程、今回貴様が戦いに選んだのは、コード:マトリックスか」
コード:マトリックス。 それは将棋に、コードと呼ばれる新たなルールが適応された、最初のコード将棋であった。
「コード将棋の祖にして、最も邪道と言われたあのコードをな。いいだろう久しぶりにワシも、気持ちがうずいて来たわ」
コード:マトリックスは、人間サイドと機械サイドとで適応されるルールが異なり、どちらのサイドを選ぶのかは、棋士達が各々に自分で決められた。
今回挑戦者は人間サイドを、受ける対戦者は機械サイドを選ぶのだった。
「セット黒電話、三台」
挑戦者がそう言うと、盤上の中央ラインのマス目に、黒電話のマークが三台浮かび上がる。
「対局、始めっ」
人間サイドを選んだ挑戦者は、自分の駒を積極的に前へ進め、中央ラインの黒電話のマス目に重ねていく。人間サイドの駒は、黒電話のマス目に止めた自分の駒を、任意で回収して、自駒のストックにする事ができるのである。
次々に自分の駒を、黒電話で回収して、ストック駒にしていく挑戦者。
しかし対戦者は、不敵な笑みを浮かべるのだった。
「黒電話での自駒回収‥ ふっ、コード:マトリックスの定石よの。
しかし知らぬ訳でもあるまい。敵駒を取って自駒のストックにするのと違い自駒回収には、大きなリスクがある事を。
それは盤上にある自分の駒を、どんどん減らしてしまう事だ。
ワシは、自分の駒を取られていないので、全然痛くないぞ。
むしろ相手の盤上の駒が少なくなって、攻めやすくなったわ」
対戦者は、大笑いをする。
「機械サイドを選んだワシには、黒電話での自駒回収を行う事ができない。
しかし機械サイドにしかできない事がある。 それが、これだっ!!」
そう言うと対戦者は、挑戦者の飛車駒の向きをひっくり返して、自分の駒にしてしまった。
これこそが機械サイトに与えられた特殊コード、ハッキング能力だった。
「機械サイドは、場に出ている黒電話の数だけ、盤上にある相手の駒を自分の駒にする事ができる。今回貴様は、黒電話を三台セットしたから、ワシは三つの駒を同時に、自分の駒にする事ができるのだ」
そう言って対戦者は、挑戦者の盤上の駒から、飛車、角、歩を次々に自分の駒へと変更していくのだった。
ちなみに相手の駒をハッキングすると、進められる方向も逆になる為、初期位置にある香や桂馬をハッキングするのは、自殺行為なのである。
元々盤上の自駒が少ない上に、強力な駒を相手のコントロール下に奪われて一気に立場が弱くなってしまった挑戦者だったが、なぜか挑戦者は落ち着いていた。
「ふっ油断したな。あんたは今、ハッキング能力を三つ使った。これにより人間サイドの条件コードが起動して、コード:ネオが発動するんだ」
条件コードとは、ある一定の条件を満たした時にのみ使用可能となる、特殊コードの事である。
コード:ネオ。それは人間サイドにのみ与えられた、伝説の裏技であった。
本来裏返る事のない王将が、裏返るのである。
挑戦者は静かに、自駒の王将を裏返す。
そこにはキラキラに光る金色のラメで、本来将棋にはあるはずのない文字、覚醒という文字が書かれていた。
「覚醒状態にある王将の駒は、全ての駒の動きを兼ね備える事ができる。
そして今、覚醒した王将の攻撃射程距離の中に、あんたがハッキングをした俺の駒がある。あんたには、それが何を意味しているか分かるよな?」
「貴様‥ まさか、最初からそれを狙って!」
対戦者がハッキングをした駒は、次々と覚醒した王将によって取り返されて行くのだった。
「にぬぬ‥ だが、黙ってこのままやられるワシではない。
貴様がコード:ネオを発動した事によって、コード:マトリックスは、次のフェーズである「マトリックス リローデット」へと移行をするのだ。
それにより機械サイドの一度に行える敵駒のハッキング数の制限が解除され無制限にハッキングができるようになるのだ」
そう言うと対戦者は、次々に挑戦者の駒を、自分の駒へとハッキングをしていった。
一気に形成が逆転していき、盤上の挑戦者の駒は、とうとう覚醒をした王将一つのみとなってしまった。
「形勢逆転じゃな」
対戦者がにやりとする。
しかし挑戦者は、至って冷静だった。
「やはりな、そう来ると思った。あんたは再び、油断をしたんだ。
王将を除く全ての駒をハッキングした事により、コード:マトリックスは、最終フェーズである「マトリックス レボリューションズ」へと突入する。
これにより、双方共に、王将の駒しか使用ができなくなるんだ。
さあ、あんたも王将を裏返しなよ。
正真正銘、これが最終決戦だっ!!」
対戦者が、最終フェーズ時のみ許される、自駒の王将を裏返す。
そこには金色に輝くラメで、覚醒と書かれた文字が浮かび上がっていた。
「うおおおお~~~っ!!!」
両者の熱く高ぶっていく感情とは裏腹に、観客達は、大分以前から対局への興味を失っていた。
「マトリックスって、やっぱ一作目がピークだよね」
コード:マトリックスが、廃れてしまった所以である。
※尚、コード将棋、コード:マトリックスについて、詳しく知りたい方は、
下記のブログを参照してください。
参照ブログ記事
第56回、コード将棋を考案してみた
第57回、コード将棋を考案してみた その2
第60回、軍儀風変則将棋を考案してみた
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?