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連続小説「アディクション」(ノート13)

ギャンブル依存症から立ち上がる

この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。

〈「訃報」〉

文化祭が終わって時が経ち11月に入り、私も治療プログラムを着実に重ね、同時に体も鍛えられこのクリニックに「馴染んで」きた頃に訃報がありました。

塩月さんが亡くなったのです。

ここ1、2週間ほど見かけなくなっていて心配はしていたのですが、スタッフからは「体調を崩した」としか聞いてませんでした。

朝のプログラム前に、才所さんから経過の報告があり、2週間前にクリニックを出て帰宅途中で心臓発作を起こし、救急車で病院に運ばれ、意識が回復することなく数日後に息を引き取ったとのこと。

葬儀も納骨も近親内で既に済ませたそうです。

クリニックでは、メンバー全員で黙祷を捧げ追悼いたしました。

私も倉骨さんもその報せを聞き、黙祷を捧げた後は、嗚咽するしかありませんでした。

葬儀にメンバーは原則行くことはできません。お察しとは思いますが、「行かせるとマズい」ような人達ばかりということです。

実は以前は、葬儀の案内もあったようなんですが、香典袋に中身を入れなかったり、焼香後の精進落しで振る舞われた寿司などの料理を長く居座り独占したり、果てには「喪服フェチ」がいて、葬儀の参列に来た女性をストーキングする者もいたので、理事長の逆鱗に触れ、葬儀の案内は一切しないということになってしまいました。

スタッフで才所さんがクリニックを代表し、弔問されました。

「そんなやつらの集まりだから、こういう時は本当に嫌になります」

「倉骨さんは、特に可愛がってもらいましたからねぇ」

「いちおう、葬儀の様子だけは才所さんが個別に教えてくれました」

「それは、良かったですね」

「香典は2種類あって、クリニックスタッフ一同からと理事長個人からのようです」

「理事長なら、個人で出すだろうな」

「ちなみにスタッフ一同が1万円なんですが、理事長個人からは20万円だったそうです」

「え?てか、才所さん、そんなこと教えちゃっていいんだろうか?」

「はぁ、2万でいいから俺に回してくれ。いや、1万でいい」

「淡河さん、盗み聞きはよくないですよ」

「親族儲かったよなぁ」

「だから不謹慎ですよ」

アディクションの「ドン」も、あっけなく逝ってしまいました。このフロアのメンバーの中でも色んな「リテラシー」が高い人でした。

56歳の時に、競馬でヤバい業者から借金して500万のお金を作り、大勝負をして、見事20倍を的中させ1億を手にしたと思いきや、審議で勝ち馬が降着になり、これで全てがパーになり、家族も仕事も住むとこも失い、着の身着のままで市役所に駆け込んで、生活保護とクリニックに繋がったとのことです。

仕事は、大手企業の営業部長で重役昇進直前。学歴もW大の政経学部卒業で超絶エリートだったようですが、競馬だけがやめられず、家族に内緒で借金を重ね、最後の大勝負が「降着」で破れ、重役の昇格もお釈迦になったと、

ミーティングでの本人談で、信憑性がどこまであるかわかりませんが、ただそのくらいの役職なら十分務まるだろうなとは思っていました。

大北さんが「ギャンブル止めてます!」とミーティングのたびに散々アピールしているのに対し、塩月さんは全くそんなことを言わずに10年止めていました。

なぜ、社会復帰しなかったんだろう?

いつも疑問に思ってましたが、ギャンブルに依存するくらい背負っていたものが「重かった」から、もしかしたらクリニックでの規則正しい生活が御本人にとっては一番「充実した」ものだったのかも知れません。

享年66歳 合掌

〈「インフルエンザ」〉

ここ「正力クリニック」では、12月のイベント「クリスマスフェス」に向けての準備が進められていました。

とはいえ、やることは文化サークルの発表と「フロア対抗料理対決」というお決まりの題目となっていて、さらに今回もアディクショングループの課題はカレーとなっていました。

これは大北さんが、猪口部長に真相を告げ口したらしく、部長が赤っ恥をかいたこともあったのですが、

「よろしい。ではレトルト以外を使えばもっと素晴らしいのが作れるんだな。」

ということで、今度は「秘策なし」でのカレー作りとなりました。

前回の立役者は他界しているため、今回は新たにリーダーを決めなければならないのですが、大北さんがやる気満々になっているのを淡河さん、迫丸さんがどうしても阻止したいということで、

「屑やん、やってくれんか?」

「え、そんな、淡河さんやればいいじゃないですか」

「俺はそんなことやってる暇がない」

「有馬記念と重なりますからね」

「大きい声で言わなくていい。それに俺はギャンブル嫌いなんだ」

「よく堂々と爽やかにウソが言えますね?まぁ事情はお察ししますが」

「さっきさ、迫丸と倉骨とも話をしたんだよ。大北にやらせると一人で暴走するんだよ。間違いなく。」

「で、それで何で私なんですか?」

「あのー、私からもお願いします」

「え、才所さん、どうして?」

「私もその、大北さんのアレにはかなり問題があると思いまして、で、『スタッフの依頼』ということで、屑星さんにお願いすることとします。」

「じゃあ、それって断れない話ってことですよね。」

「淡河さん、迫丸さん、倉骨さん、そして若手の方々からも支持がありますので是非お願いします。」

「大北さんが怖いなあ」

「そこは、『スタッフの権限』でどうにかいたします。」

と、「大役」と言っていいのかわからないが、料理対決のリーダーを務めることになってしまいました。

「ゴホン、おめでとうございます。ゲホ、ゲホ」

「なんすか、魚さん背後から」

「今度はちゃんとやりますから、ゴホ」

「邪魔しなけりゃいいです」

「随分なこと言いますね、ゲホ」

「前回のこと忘れたんですか?」

「アレは情報が少なかった、ゲホ」

「さっきから、声も変だし咳も酷いですよ。てかマスクしてください。」

「そういや、熱っぽいんだよね、ゴホ」

「病院行きましょう」

「いや、大丈夫です、ゴホゴホ」

「いや、大丈夫じゃないです」


「魚さーん、お熱測りましょう。」

と、すかさず島野さんが魚さんを呼び出しました。

「37度8分あります。すぐ隣の小津医院に行ってください。で、そのまま早退するようにしてください。」

夕方のプログラム前に、才所さんから

「えー、院内でインフルエンザに罹った方が出ましたので、体調に違和感を憶えた方は、小津医院に検査に行ってください」

(やりやがったな。)

約2、3日後、私も含めメンバーのほとんどがインフルエンザに感染してしまいました。そりゃあ、席は近いし、ミーティングでマスク無ければ飛沫は飛びまくるだろうし、、

そして、アディクショングループは2週間閉鎖することとなり、例の「料理対決」は、ほぼ本番ぶっつけで臨むこととなってしまいました。

今回はここまでとします。

GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ








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