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凡人・軍人・変人

 経営者は3分類されます。「凡人」「軍人」「変人」です。経営者には特殊能力が求められます。それはスキルではなくセンスです。センスとは、商売丸ごと動かし、結果を出す能力です。

 2024年(令和6年)1月17日、日本航空は4月1日付で、客室乗務員出身の鳥取三津子専務を社長に起用する人事を発表しました。鳥取氏は59歳。1985年に入社し、客室乗務員を長く務め、客室本部長などを経て、現在は専務でグループの最高顧客責任者を務めています。

 生え抜きが社長になるものが当たり前と世間は決めつけていますが、実は生え抜きが社長になるのは極めて稀なのです。担当者はスキルを高めれば、出世できますが、いくらスキルを高めても専務や常務になれるかもしれませんが、社長にはなれません。社長に必要なのはスキルではなくてセンスだからです。

 スキルとは、例えば国語・算数・理科・社会といった教科です。他方、「女にモテる」というのはセンスの問題です。モテない人は何かのスキルが不足しているからモテないのではありません。恋愛に向いていないだけなのです。

 社長といっても、タイトル(肩書)のことではありません。むしろ、「商売の塊を丸ごと動かす人」のことを社長と呼ぶのです。自分でどうやって稼ぐか考えて、物事を動かしていく人のことです。同業者の物まねだけだったら社長ではなく担当者です。

 社長にはセンスが必要です。スキルと違って、センスを育てることはできません。センスは育てるのではなく育つのです。修羅場を経験し、疑似体験を積み重ねることによって、見えないものが見えるようになる、聞こえないものが聞こえるようになるのです。

 1998年(平成10年)7月に行われた自民党の総裁選を、自民党・田中真紀子議員(当時)が「凡人、軍人、変人の戦い」と言ってのけました。「凡人」は地味な小渕恵三氏、「軍人」は陸軍士官学校出の梶山静六氏、「変人」は自民党の異端児・小泉純一郎氏です。

 現在の社長も「凡人」「軍人」「変人」に3分類できます。「凡人」は自分にカリスマ性も決断力もないと理解しているため、重要な決定事項は周りに相談します。周りに自分より優秀な人が集まり、その人たちが会社を動かしてくれるのです。

 「軍人」は情報収集と分析、権謀術数に長けています。小さなミスが死を招くことを痛いほどわかっていますから、環境の変化を察し、相手が気付く前に手を打ちます。社員同士の信頼感を高めると同時に、自ら仕事を作って成果を出す人材を多く輩出させます。

 大本営参謀・瀬島龍三氏は、シベリア抑留後、1958年(昭和33年)伊藤忠商事に入社します。入社時の伊藤忠商事の社長は小菅宇一郎氏でしたが、ある日小菅氏に呼び出された瀬島氏は「この会社には商売をする者は腐るほどいます。だから瀬島さんは商売はしなくていい。この先、日本も世界も大きく変わってゆく中で、あなたには商社としてどう進んでいけばいいのか?そういう観点から助言や補佐をしてもらいたい」と伝えられたそうです。 

 1968年(昭和43年)に専務、1972年(昭和47年)副社長、1977年(昭和52年)副会長と昇進し、1978年(昭和53年)には会長に就任しました。瀬島龍三氏が育てたのが丹羽宇一郎氏で、社長・会長を歴任後、民間人として初の中国大使に任命されます。

 「変人」は大きな目標や奇抜なスローガンを掲げ、社員をその気にさせます。ユニクロ創業者・柳井正氏は、相当な「変人」のようです。柳井氏は根っからの異端児。高校時代のあだ名は「山川」。人が山と言えば、自分は川。人と同じことはしなかったそうです。実家の家業を継いだ後も、親の言うことには耳も貸さず、ただ自分の目だけを信じたのです。

 香港で出会ったSPA(製造小売業)。世界を見渡せば、年商数千億のカジュアルチェーンは全てSPA。「だったら日本のチェーン店がやっていることは全部間違っている」。そう考えて、日本でSPAの巨大チェーンを築くことを決意します。

 現在、日本には「軍人」はいませんが、「商社マン」は「軍人」に該当します。事実、戦前の商社は軍の特務機関をしても機能し、戦後も民間企業として諜報活動の一翼を担っており、商社の情報ネットワークは米国諜報機関CIAに匹敵すると言われています。

 ライフストア3代目社長は商社出身、オーケーストア2代目社長も商社出身、ともに「軍人」です。ヤオコー、マミーマートなど二世経営者。二世経営者は「凡人」の割合が多いようです。「変人」はいるのでしょうか。

 さかのぼってみればイトーヨーカ堂創業者・伊藤雅俊氏は特攻訓練生でしたから「軍人」、セブンイレブンの創始者・鈴木敏文氏「変人」を輩出でます。イズミ創業者・山西義政氏は、潜水空母イ400の乗組員で「軍人」、中国・九州に巨大流通グループを築き上げます。イオン創業者・岡田卓也氏も学徒出陣されていますが、呉服店の7代目なので「軍人」と「凡人」の中間でしょうか。

 ダイエー創業者・中内功氏は、軍曹でしたから「軍人」ですが、「売上げはすべてを癒やす」 「よいものをどんどん安く」のスローガンを従業員だけでなく周りを熱狂させ、流通革命を起こした「変人」です。西武流通グループの堤清二氏は二世経営者で「凡人」ですが、マルキストであり独自の感性経営を行ったので「変人」です。

 スーパーマーケットの経営は現在も「凡人」「軍人」「変人」の戦いなのです。

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