読書#20-1「ルトワックの日本改造論」著:エドワード・ルトワック、訳:奥山真司
どんな本?
ルトワックおじさんをご存知だろうか。
戦略国際問題研究所(CSIS)上級者顧問で、軍事史、軍事戦略研究、安全保障論の専門家であり、国防省の官僚や軍のアドバイザー、さらにはホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーでもある。
つまり、国家安全保障のスペシャリストだ。
そんなルトワック氏が、日本の安全保障について解析し、問題点を指摘したのがこの本である。朝鮮半島や中国共産党のリスクについてわかりやすく語っており、日本政府をどぎつく批判している。パッとまとめると以下3点だろうか。
子育て支援を充実させて、国民の若返りをせよ!
せめて必要最低限の軍備くらいしなさい!
諜報機関を整備しないとやばいよ!
さて、知ったかする気はないので、正直に述べるがルトワック氏の本を読むのはこれが初めてだ。その他セミナーも受けたことはない。では、なぜこの本を読んでみようかと思ったかといえば、翻訳者の奥山さんの番組を見ているからだ。
奥山さんの番組では、国際の時事問題を取り扱ったり、国家安全保障について彼の視点に基づいて紐解いている。その中でルトワック氏が紹介された。せっかくだから読んでみようというのが今回の記事である。
国家安全保障と言われても、全く身近にないのでピンと来ないかもしれないが、ウクライナとロシアの戦争が起こったことで、少しくらい興味が湧いた方もいるのではないだろうか。読みやすいので、そんな方にはおすすめだ。
気づきは?
日韓関係とドイツ周辺国のアナロジー
これは日韓関係を語るうえで出てきた戦後のドイツとスウェーデンの話である。いわゆる一つの法則として、戦争後には、敵対していた国々よりも、味方であった国の方が強い反感を持つらしい。
興味深かったのは、日本の外から日韓関係を見た解析であること。日本がわるいとか、韓国がわるいとかではなく、利害関係のない第三者からの分析結果だから、見えたことではないかと思われる。
私には韓国のすさまじい反日キャンペーンは理解できないのだけど、ドイツとスウェーデンもやっぱり似たような関係ですわ、と言われたら、あー、じゃ、これは韓国特有の何かというより、敗戦後に生じる現象なのね、と思えてしまう。
だからといって、何か解決するわけではない。この本の中ではかなりきつい言葉で、韓国とは対話不能だと書かれている。私なりに解釈すれば、敗戦国の周辺国が必ずかかるはしかのようなものだと考えて、治そうと努力するのではなく、対処療法的に見守るのがよいのではないかと……。
日本人の核兵器アレルギー
元も子もないな。
引用を読んで、いささか呆れたのは私だけではないだろう。一方で、確かにと思った方もいるのではないだろうか。
これは事実なのだけれど、私にはレトリックのように思える。確かに核兵器は戦後使用されていないので誰も殺していないが、だからといって、怖くないですよー、というのは飛躍している。
この本では、その後の話で、さすがにそうは言っていない。本の書きようから察するに、何も考えず反射で「核兵器ダメ絶対!」と叫ぶのではなく、その効用を理解して正しく扱いなさいということだと思われる。
そういう意味で、引用部分は書かなくてもよかったのではないかと思った。では、なぜ引用したのかといえばパンチが強かったからだ。ここだけ引用されて一人歩きしそう。今、私がやっているように。
もう一度言うが、引用文は、核兵器に対する思考停止を揶揄したものであって、核兵器は安全とか、もっとたくさん作ろうぜとか、そういう安直なメッセージを発信したいわけではないことをご留意いただきたい。
国の結束とは敵に対する考え方が一致していること
民主党のナンシー・ペロシ氏に共和党のトランプ大統領のことを聞けば、「彼はひどい」と言うだろうが、一方で、中国への攻撃的な政策については評価する。
これが、著者の言う結束である。
私の理解だと、細かな政策について議員内で食い違うことが多いだろうけれど、国家安全保障という大きな枠組みにおいては一致していること、を結束という。
アメリカでいえば、トランプの経済政策やメキシコの移民政策についてはいろいろ批判的な意見もあるだろうが、対中国という大きなフレームについては共和党と民主党で一致している。
これは、国家運営としては、とても大事なことのように思える。
では、日本はどうだろうか。国家安全保障について、どんな議論がなされているだろうか。とりあえず北朝鮮のミサイル防衛については議論されている。しかし、中国は? ロシアは? そもそも仮想敵国として認定もしていないのでは?
そのあたり明言するのは戦略的に問題があるのだとしても、国家安全保障として、どういう方針なのかは明示してほしい。ただ、仮に明示していたとしても、その案に野党は賛成するだろうか。いや、十中八九反対するだろう。
自民党が国家安全保障に関するフレームをつくったとしても、立憲民主党などに政権が代われば、そのフレームが大きく転換すると予想される。
とすると、今の日本に、ルトワック氏の言うような”結束”はないかもしれない。あるとすれば、誰も国家安全保障に関してまじめに考えていない、という楽観主義的な烏合の衆だけだ。