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分解と再構築『花人局』
はるかすみ
なごりぞきえむものおもひ
たそかれにたつせのあらざるか
温かいのか寒いのかよくわからないのに、桜だけは満開になっていた。去年の見頃はいつだったっけ。その時は何を考えていたんだっけ。ぼんやりとしていて、何もかもが冴えない。
形のあるものは、そこに存在しているその意味なんて関係なくそこにあるのに、形のないものは、たしかにあったはずなのに何処から来てどんなものだったのか、それを保証するものはどこにもない。そしてその意味をどれだけ探っても、今ここにはないという答えしか教えてくれない。
そんなものに縋っていたわたしは、どうしたらいいのだろう。何者でもなくなってしまったわたしは、どう振る舞えばいいのだろう。もたれかかる背中を失ったわたしは、まともに立ってもいられないのに、どうやってこの世界を眺めればいいのだろう。
霞もとうに消えた夕暮れ。帰るべき場所に向かう誰かも知らないその人たちの背中に貴方の面影を感じてしまうのは、きっとわたしの瞳がまだ涙で翳んでいるから。
あり得ないことだと分かっていても、この朧げな毎日の中で貴方の「ただいま」を探してしまうのかもしれない。
でも、わたしは待てる。かすみが晴るのを待てる。そうして、あの日二人で見たようなキレイな夕焼けに出逢えたら、きっとちゃんと言えるから。
「 」って。
あとがき
花見に行ったときに、ふとこの曲が浮かんできて短歌が出来た。家に帰り、歌詞を読み直して短歌と照らしていると物語ができた。曲から連想した短歌だけれど、物語は短歌をメインに据えている。
歌詞自体の解釈は人それぞれだ。でもこれはそういう物ではなく、全くの別物だ。(なんせ「僕」が「わたし」に変わるくらいだ。)
これは、曲を分解して私なりに再構築した産物。曲が私に残した“花”と“温もり”が、私の花を咲かせただけのこと。
表現したい気持ちに形はないけれど、表現された言葉は形を持って、ただそこに在る。