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道化師なんて役に立たないこの世界で
コマンドをコントローラーで押下する。タッチパネルを指でなぞる。モーションセンサー付きのスティックを振るう。
方法はなんでもいいけど、そうすることで画面の向こうの自分はいとも簡単にモンスターを薙ぎ払う。いつの間にか戦利品を手に入れていて、倒した敵なんて最初からそこにいなかったかのように画面から消え失せる。
なんてことはないRPGのモンスター退治の流れ。これはもうゲームなら当たり前のことだろう。省略すべきことまでいちいち詳細になんて表現していられない。倒した敵のその一匹一匹の背景なんて誰も知らなくていい。知る必要もない。でもそこには何も無いわけじゃなくて、その敵にも生きていたい理由があって、敵を倒したプレイアブルキャラにも倒す理由があって、それを画面越しに見る私達は何を思うべきなんだろう。と、そんなことを感じるアニメだった。
『灰と幻想のグリムガル』
原作は未読、アニメのみ視聴。
ネタバレ込みの感想文です。
感想
よくある(と言っても私は読んだこと無いので王道がどんなものかも知らないが)異世界転生モノ風で描かれているけれど、それは単に視聴者(読者)に理解しやすい演出のためという点と、読者に前述のメタ視点(画面越しに見る自分たち)を意識してもらうためなような気がした。
というのは、この手の物語というのは、現実世界で何者かになり得ない自分が別世界でうまくいくという作中のキャラに自己投影する読者が多いのではないか、と思う。そうであれば、この作品に触れた人もそういう気持ちで読み進めるはずだ。そうすることで、この作品のテーマを自分事として捉えることが出来る。作者の意図はそこにあったように感じる。少なくともアニメの監督や脚本家は意識していたと思う。でなければ、一話と最終話に同じセリフを入れないだろう。
「生きること」「死ぬこと」「殺すこと」「殺されること」「死にたくても生きなきゃいけないこと」「死んでも貫かなくちゃいけないものがあること」そして、このどれもが独りでは出来ないこと。仲間が、誰かが、そこにいてくれなきゃろくすっぽ出来ないこと。これがこの作品のテーマだと思った。
その世界での最弱のモンスターにもドラマがある。家族がいて仲間がいて生活があって、みんな死にたくない。生きるために必死だ。狩る側か、狩られる側か、なんてタイミング次第の主観でしかない。大事なのは、純粋な生きることへの執着、それは本能であったり、誰かのためであったり、自分のためであったり、そんなものはそれぞれで、どれが正しいとかなんて無い。だから必死なんだ。その点に関しては狩るも狩られるもなく、対等だ。「生きること」は「(敵を)殺すこと」に繋がる。
主人公らは「生きること」に必死になりきれていなかったから、仲間が「殺されること」を体験してしまう。それは、残された者の胸に「生きること」の意味を問いかける。
新しい仲間を迎えた主人公らは「死にたくても生きなきゃいけないこと」になっていた目的を果たして、「生きること」を知って、そこでようやく本当の意味で強くなったんだろう。だからゴブリンスレイヤーの二つ名は不名誉なんかでなくて正当な、とても誇るべき評価だ。
途中加入した彼女は、彼女のために「死ぬこと」を選んだ人の想いが「死にたくても生きなきゃいけないこと」になっていた。だから彼らの抱えるものに共感し、「死んでも貫かなくちゃいけないこと」を果たしてくれる仲間になれたんだろう。信じられたんだろう。そして、仲間の助けを得た彼女は「殺すこと(不死者を浄化すること、そこに囚われていた自分を昇華すること)」をもってして自らの「生きること」に繋げられた。
こうして、全員が「生きること」に必死になった彼らはとても強い。画面越しに見つめる私達はそういう強さを感じ取れるのだと思う。そして、それを現実世界を生きる自分の「○○すること」と繋げていける気がした。
生きる意味なんて大層なこと考えなくても、やるべきことをやろう。向かってくる困難に負けていられない。だってほら、画面を眺めるこの世界にも“また明日”がやってくるから。
※
以下、雑記。
誰しもある程度そうだろうけど、やっぱり「死んでも貫かなくちゃいけないこと」を見せてくれるキャラに惹かれる。
負傷を隠して逃走を優先した初代神官。
もう誰も死なせないと誓う二代目神官。
随所で決断を下す主人公。
そして、最初っから自分を貫いている暗黒騎士。
(一応、見せ場としてはアニメ版ラストバトル。たぶんだけど、このキャラは人気ないだろうけど、かなり重要な立ち位置だと思う)
ファンタジーを題材にした人間ドラマだと思うので、やっぱりキャラが大事ですね。掘り下げがもう少し欲しい気もしたけど良かったと思います。
モノローグが多かったり、端折られた部分が多そうなのはアニメ版なら仕方ないかなと思いつつも、キャラの成長を実に8話ほどかけてゴブリン退治で表現するのは、テーマともかみ合っているように感じて、むしろこれでよかったのかも。戦闘シーンはハラハラしながら見られたし、一気見するくらいのめり込めたし。神官の彼女のキャラのイメージとエンディングテーマのイメージがだいぶ象られたし、大満足でした。
ちなみに私は初代神官のポジションだろうなぁと思います。余りもののルーキーを束ねて、決して見捨て(る事など出来)ず、自分の負担割合が多いのも気にせず、チームのバランスをとる……まんま私の働き方ですやん。いやいや、それでも私は道化師というポジションでいたい。でもあの世界では全く役に立ちそうにない。どうしましょ、最後尾で神官とおしゃべりするしかないかな。それもいいや。え、だめ? あ、置いてかないで!