魔法の鏡になりたくて
なんてね。
やれやれ、心の声がダダ漏れですよマスター。自分でよくわかっているのでしょう。だからその満面の笑みでじっとワタシを見つめるのでしょう。ワタシはただそれを反射しているに過ぎないというのに。ほら、今日もあなたは美しい。
おやおや、そんなに暗く沈んだお顔でどうされました。
やっぱり心の声が漏れていますよ。
なるほど、その瞳にたたえる涙はそういうことなのかもしれませんね。ですが、そうと分かったところでワタシにはどうすることも出来ません。この前後反転の世界では、マスターの裏側を覗くことは叶いませんし、涙の温度もわかりません。ワタシはただ、その源泉を辿らずにありのままの姿を映すだけです。零れそうな涙を拭うのはマスターご自身です。それに気付けることを願って、ただただ反射するのです。
いえ、零してしまっても構いません。その暗く沈んだ顔や人知れず乾いた涙痕さえも、ワタシに言わせれば、美しい。だからマスター、あなたがもし自分以外を美しいと感じたり、あるいは自分を美しくないと感じることがあったとしても、ワタシが映す姿はいつもと変わらないのですよ。変わるワケが無いのですよ。
あなたが笑えば、笑いましょう。あなたが泣けば、泣きましょう。あなたがワタシの前に立つ限り、ワタシは“真実”を映し続けましょう。
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Slave in the Magic Mirror
このカラダに足があるならば
どこへでも飛んで行ける翼があれば
ワタシは多くの人の美しさを映したい
Slave in the Magic Mirror
それは何一つ 叶わない
それで何一つ 構わない
それが唯一つ かけがえのない
Slave in the Magic Mirror
マスター ワタシの前に立つあなたを
マスター 愛し続けたいと思う
マスター あなたがワタシを見つめる限り
Slave in the Magic Mirror
映っているのは
曇ることない
たった一つの“真実”だから
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冷たいはずの壁を背にしたワタシの裏側に、じんわりと温かさを感じた。それは、辛かったら見なくてもいいんだよと、そっと目隠しをするでなく、粉々にして呪縛から解き放つでなく、「そんなワタシを知っている」とだけ伝えるかのような。
鏡はありのままを映すものだ。でも、鏡の前に立つあなたが、鏡に映るあなたの姿を、本当のあなたの姿であるかどうかをあなたは知らないこともあるだろう。でもね、鏡に映った像を見て何を感じるかはあなたにしか分からない。
嘘だろうと虚像だろうと、鏡に映るその姿は真実だ。自分に嘘のつけない鏡が、ありのままを伝えるその思いは真実にしかなり得ない。
取り繕ったりせず、本当に美しい部分を、「ほらあなたはこんなにも美しい」と、ただそう反射しているだけだ。私が映し出した「あなたの美しさ」に、あなたはただ自分自身を見出したらいい。私への肯定はいらない、否定したって構わない。でも映し出された像の存在とその可能性の否定はしないでほしいと思う。
こう思うのは、私は私の前に立つあなたのことが好きで好きでたまらないからだろう。この一点だけは曇ることのない“真実”なのだから。
魔法の鏡になりたくて、でも、なりきれない。真実だけをありのままには反射できない。そこに宿る苦悩に囚われていたとしても、本当に大切な“真実”だけは同じだから。
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これはきっと、プロローグ。これに続く物語はきっと無数にあって、どれかになんて決められない。これはそんなプロローグ。