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【読書感想文】成功者K


こんばんは、読書の秋です。

今回読んだのはこちらです。


成功者K

羽田圭介


羽田圭介さんの本はいくつか読んだことがあり、結構好きな作家さんです。

この作品は、芥川賞を受賞したことで”成功者K”になった作家の変化していく仕事、生活、女性関係を通して悩み、葛藤、悦びを描いていく作品でした。


この小説の面白いところは、フィクションなのかノンフィクションなのかはっきりしない世界線で書かれているところでした。というのも、羽田圭介は実際に芥川賞を4度目のノミネートで受賞した経歴を持っております。また、受賞後はテレビにも出るようになり、この作品の主人公である成功者Kとリンクしている点が多いのです。というか、ほぼ本人の経験を元に話が進んでいます。実際に彼が交流している作家や、実在する会社名なども登場するところがリアルさに拍車をかけてます。

まさに、これは彼でないと書けない作品であったと思います。この背景を知って読むのと、知らずに読むのでは感じ方が変わってくると思いますが、知ってても知らなくても楽しめると思います。特に、芸能人のスキャンダルや業界の裏事情なんかに興味がある人は、のめりこんで読めるのではないでしょうか。

ちなみに、”成功者”は”性交者”とかけられており、作中では性交しまくっております。



この作品で私が考えさせられたのは「成功による犠牲」でした。

成功者Kは芥川賞を受賞してから、メディアの出演が増えていき、女性ファンを食い散らかし、大金を手にしたことで良い車と家を手に入れ絵に書いた様な成功者となっていきます。しかし、成功を手にしたが故に本業である小説を書く時間が取れなくなり、外を歩けば好機の目を向けられマスクと帽子が手放せない日々が訪れ、文春記者や関係を持った一般人女性にプライベートをリークされるのではないかと怯えることになります。

私たちがみている芸能人をはじめとする成功者のプライベートは全く見えません。SNSやトークバラエティーで放送される自宅で撮影したVTRすら、自分をブランディングするために編集・演出された内容なのです。そして、いつまで続くか分からない芸能人としての商品価値の暴落や、忘れ去られていく危機に常に晒されるのです。その奥に隠された悩み、葛藤を想像した時に、本当に憧れるに値する成功者と言えるのか考えさせられました。

成功という言葉は以下の様に定義されています。

1 物事を目的どおりに成し遂げること。
2 物事をうまく成し遂げて、社会的地位や名声などを得ること。


別に自分が芸能人になって成功することを想像して考えてる訳ではなく、この定義は人生の中でも同じことが言えるはずです。出世をすればお金と地位を手に入れられますが、その代わりに大きな責任がのしかかります。結婚すれば家族と幸せが手に入れられますが、自分の時間が犠牲になり、独身の自由を失うのです。

自分は成功を手に入れるためにどこまでのことが犠牲にできるのか?

この作品を読んで、私は自分にとっての成功の価値を考えさせられました。



かたーく、感想を書き連ねましたが、そんな重い話ではないですので、是非読んでみてください。笑 ストーリーの面白さはまた別のところにあるのですが、彼は純文学者だと私は思っているので今回はこの本を通して考えさせられた点について綴りました。

蛇足ですが、
個人的に羽田圭介の作品は好きです。彼の書いた作品を色々読んでみましたが、作品によって抱く印象が全く異なるのが面白いです。まるで違う作家の本を読んでいるような気になれます。その中でもやはり、1番好きなのは『スクラップアンドビルド』。彼が芥川賞を受賞した作品です。高齢化のすすむ現代で、高齢者と共に生きる今、読んでもらいたいです。生きるとは何なのかが現代の若者の視点で描かれています。

ちなみに、『成功者K』は彼のデビュー作である『黒冷水』に似てました。黒冷水が好きな方も是非。



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