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ベランダコーヒーと眠った春
時間が凍りついてるかの様な錯覚をおぼえる寒い気温から、若干地球の気が緩んで暖かくなる瞬間が好きだ。ある種のカタルシスに近い感覚がある。
こんな時はベランダにでて昔好きだった音楽をイヤホンで聴きながらコーヒー片手にぼんやりと夜空を眺める。これしきの些細な事で人生の渇きが一瞬で潤うから僕の感受性はコスパがいい。
渇き続けて野心を持つのもいい事だけど、手の届く範囲から幸せをピックする才能も人生を豊かにする上で大切なスキルだ。
この日はn-bunaさんの『白ゆき』を聴いていた。n-bunaさんと言えばバンドの「ヨルシカ」が有名だ。彼の叙情性溢れる歌詞とレトリックの幅には舌を巻く。特にこの『白ゆき』は文字通り『白雪姫』になぞらえた繊細な言葉選びが神がかっていて最高である。
匂いに引っ張られてその時の記憶が想起される事を『プルースト効果』と言ったりするけれど、匂いに限らず音楽にも当て嵌まると思う。『白ゆき』は大学の卒業を控えたタイミングで聴いていた楽曲だったので、当時の心情がフラッシュバックして懐かしい気持ちになった。
かつての自分が選択した結果の上に成り立っている今の生活は案外悪くない。自分で焙煎したコーヒーをベランダで飲み、眠った春の目覚めを待つのもまた一興というものだ。