世界最古の楽曲からのメッセージ〜時空を超えた思い〜
◉『Valetudo』6月のテーマ「良い音楽って何だ?」
こんばんは!『Valetudo』編集長の暮石引です。
今回の記事は企画・イラスト担当の鬼マングローブが書いたものです。
音楽は様々な時代を彩り、人々に生きる活力を与えてきました。
では、1番古い楽曲はどんなものか?
気になりますよね?
是非とも最後まで楽しんで頂けたら幸いです。
◆世界最古の楽曲「セイキロスの墓碑銘」
サイキロスの墓碑銘をご存知だろうか?
完全な形で残っている世界最古の楽曲である。
紀元前2~1世紀頃の作品で、セイキロスという人物が妻のエウテルペのために立てた墓石に、この楽曲が記されている。
墓石に記された歌詞の訳は次のものである。
生きている間は輝いていてください
思い悩んだりは決してしないでください
人生はほんの束の間ですから
そして時間は奪っていく物ですから
どう感じただろうか?
私は簡潔ではあるが強く心を揺さぶられる歌詞であるように感じた。
また時の流れの無情さは日本の和歌などでも吟われているが、このような情感は古今東西を問わないとも思った。
古代ギリシア文化は哲学、文学、数学、自然科学など多岐にわたる分野で西洋文明の基礎となっている。
シアターやオーケストラなどの語源は古代ギリシアの劇場に由来する。
また、心理学用語として知られているペルソナも劇の際に使われた仮面が由来となっており、様々な分野で古代ギリシア由来の言葉が知られている。
当時の楽曲はその多くが断片的にしか残っていないが、それを楽しんでいた人々の記録は数多く残されている。
◆人々の思いを伝えるものは、音楽や劇
古代アテネにはディオニュシア祭という祭典が存在する。これは演劇を主とする祭で、古代ギリシアの演劇には音楽は欠かせないものであった。
古代ギリシアの劇はコロスと呼ばれる合唱隊による韻文と音楽によって構成されていた。
俳優がいない劇もあり、いても最大三人となっている。
古代アテネは民主政治の原点であり、弁論術が発達したことはよく知られている。
そのため理路整然としたイメージを持つ人が多いのだが、しかし、当時の民衆は文化的熱狂も持ち合わせており、この祭ではそれが表出している。
古代ギリシアの喜劇や音楽の特徴を知るのにうってつけの劇がある。アリストファネスの『女の平和』だ。
この喜劇は、戦争に明け暮れる男たちに対して、女たちがセックスストライキを行い和平を勝ち取る、という反戦のメッセージが込められた内容の喜劇である。
いわば神に捧げる祭典において、公然と下ネタ喜劇が上演されていたのである。
その上、この『女の平和』が上演された時代背景が興味深い。この時代はアテネとスパルタという二大ポリスがギリシアの覇を競っていた時代なのだか、そのような情勢の中で公然と反戦をテーマとした劇が上演されていたのである。
古代ギリシア人の主張の強さ、感情の発露、その表現の瑞々しさは二千年以上の時を経ても我々に感動を与えてくれる。
◆時を超える音楽
もちろん熱狂的な音楽ばかりではなく、学問的に音楽も考えられていたようである。
数学者として知られるピタゴラスは音程や音階を数学的に解明しようとしていたことが知られている。
哲学者のプラトンは、ピタゴラス等の考えに則り、ルールを無視した無秩序な音楽を批判する文章を書き残している。
これは、現代に当てはめれば「最近の音楽はわからない」とヒップホップを批判するフォークソング世代と同じようなものである。
現代では古典として括られる古代ギリシア時代にも、現代と同じような対立構造があったことは、しかもそれが偉人とよばれる人物たちによってなされていたということは非常に興味深い出来事である。
音楽は国境を越えるとよく耳にするが、同時に、音楽は時を越えるとも言える。
しかし、これは技術的進歩はあるが、人間の持つ感性自体はそれほど変わっていない、というふうにも捉えることができる。
現代においても人は争い、歌い、そして、身近な人の死に嘆き、詩を紡ぐ。
「いい音楽とは?」と問われたとき、自分の感性に従うのもいいだろう。
しかし、時代の背景を学び、遠い時代の違う国の音楽に耳を傾けることも必要のことなのではないだろうか。
◆まとめ
いかがでしたか?
世界最古の楽曲、その先人からのメッセージに、こうして励まされる。
時空を超えた交流に、感服いたしました。
言葉や、歌、踊り、詩。
あらゆる文化、その全てが我々にとってかけがえのないものだとわかります。
無知にもほどがある私ですので、努力を重ねないとそれらを楽しむ力は養えないとは思いますが、この『Valetudo』を通して様々な文化を楽しめるようになりたいです。
次の更新は6/26(土)です。
それでは皆さん、よい土曜日をお過ごし下さい。