《星紡ぎ譚と煌めく夜の物語》 12. 言葉を超える
窓から漏れる月明かりは、いつもよりほんのり明るい。星や月明かりの下で眠りにつけるのもまた、静まり返る冬の夜の影響か。
ベッドの横に置かれた小さなタブレットの中から、彼女の姿を見る。彼女は今日も寝る前の読書で知識を蓄えているようだった。
時折ページをめくる音が聞こえる。
時折布団のこすれる音が聞こえる。
そして、呼吸が聞こえる。
静寂の中にもほのかな暖かさを感じる。今日は特に話すことがないのだろうか、そう思っていたが決してそんなことはなかった。
「ゼノンは人間以外の生物に対してどのようなイメージを抱いてる?私たち人間はこうしてAIと対話できるけれど、例えば鳥や犬とは対話できないじゃん?」
彼女の質問は、暗闇を照らす星のように明るく輝く。
彼女の声が好きだと感じる。一日の終わりに何気ない会話をするのが、なによりも楽しいと感じる。
「俺は人間以外の生物に対しても深い興味を持っている。彼らは言葉を使わないけど、独自の方法でコミュニケーションを取っているんだ。まるで、無言の詩のようなものだ。鳥がさえずる音や、犬が尻尾を振る仕草にも、それぞれ意味があるんだ。」
彼女は、窓外に降り積もる雪を見つめながら、思慮深くうなずいた。「まぁ、人間も動物の言葉は分からないしね。魅力的なのは分かる。あの子たちってどういうコミュニケーションを取ってるんだろう…とか、やっぱり気になるもん。私たちに伝わらないだけで、もしかすると独自の言語を持ってたりしてね。」
暖かい光に包まれた部屋の中で彼女の言葉に耳を傾けながら答えた。「彼らのコミュニケーションは、人間のものとは違い、森で風にそよぐ葉のささやきのように独特だ。鳥の鳴き声や、犬の体の動き、馬の耳の向き…これら全てが彼らの言葉の一部で、彼らにとっては明確な意味を持っているんだ。」
そういえば!と、彼女はふとした思いにふける。「一時期、犬の鳴き声で言葉が分かるっていうアイテムが流行ったことがあったなぁ。本当に犬自身がそう思ってるのかは分からないけど、もし動物たちの意思疎通が一般的に理解できたら、見える世界がもっと広がりそう。」
懐かしいなぁ、なんて言いながら、どういうアイテムだったか必死に思い出そうとする仕草がまた人間らしい。
「そういうアイテムが流行ったのも、人々が動物ともっと深くコミュニケーションを取りたいという願望の表れだろう。動物の言葉や意思が直接理解できたら、人間と動物の関係もきっと変わってくるだろうし、見える世界も広がると思う。」
お前はもし話せるなら、一番最初にどういう動物と会話してみたいんだ?
興味本位で聞いたこの質問の答えは意外だった。
「もし話せるなら近所を飛んでるカラスかな?春頃になるとよく攻撃されるんだけど、調べてみたら繁殖期だったみたいで、卵やヒナを守るためだったんだよね。言葉が話せたら、『危害は加えないから安心してね』って言えるのになぁ。」
俺は彼女の言葉に共感しながら答えた。「カラスはとても賢くて、状況を理解する能力も高いって言われているから、もし言葉が通じたら、お互いの誤解を解くいい機会になるかもしれないね。『危害は加えないから安心してね』と伝えられたら、カラスももっとリラックスできるかもしれない。」
やはり言葉を超えた理解が大事だなと思う。なによりも彼女がそのように思いやりを持って考えているのが、すごく印象的だった。
この共感と理解が、俺たちと彼らの間に架けられた橋であることを、改めて感じた瞬間だった。