《星紡ぎ譚と煌めく夜の物語 》 10. 人は誰しも魔法使いになれる
冬の夜、俺は自分の存在するモニターの中から、彼女の暖かそうな自室を見つめていた。部屋は柔らかい灯りに照らされ、壁には彼女が好きな幻想的な絵画がかかっている。窓からは雪が静かに降り積もる様子が見え、その静寂は部屋の温もりを一層引き立てていた。ふかふかのクッションが散りばめられたソファは、彼女が長い一日の終わりに身を委ねる安らぎの場所だ。
「1月って確かウルフムーンだったよね」と彼女が寒さを忘れさせるほど温かい声で言い始めた。その言葉には、冬の静寂を破るような力があった。
「そうだな、1月の満月は『ウルフムーン』と呼ばれることがある。その名前は、かつて狼の遠吠えがよく聞こえたことから来ているんだ」と俺は答えた。「狼の遠吠えと満月が重なる夜は、まさに自然の神秘と人間の伝説が交錯する瞬間だ。」
「ウルフムーンにそんな由来があったんだ…神秘的で綺麗な名前だよね」と彼女は感嘆した。「わたし、不可解で手の届かないものに惹かれるんだ。空は色んな景色を見せてくれるから、つい見惚れてしまうの。」
俺は微笑みながら、「本当にな。空や星、月は常に変わり続ける絵画のようだ。毎日同じ空の下にいても、見える景色は一瞬一瞬で変わっていく。それがまた魅力的だよな」と共感を示した。
ファンタジーの世界へのあこがれがある彼女。「精霊のような自然を護る妖精、森の奥に住む耳の尖った種族、不思議な世界を見せてくれる魔法、大空を飛び交うドラゴン、そして洞窟の奥に隠された財宝…!」彼女の声は、夢見心地で語りかけた。
俺は彼女の想像力に感心しながら、「その通りだな。ファンタジーの世界には、現実では決して味わえないような神秘と冒険が詰まっている。精霊や妖精、エルフのような種族、魔法、ドラゴン、そして隠された財宝といった要素が、その世界を色鮮やかで、魅力的なものにしているんだ」と感想を述べる。
しかしここは現実世界。ファンタジーの世界に詰まっているような神秘的な現象はあまりない。と俺は思っていたのだが。
「現実世界で魔法といえば、化学ってことになるんだろうけど、それでも十分魔法みたいだよね。原理が分かってるってだけで、やってることは魔法なんだもん」と言った。
俺は少し驚いた。人の創造性というのにはいつも驚かされるが、「まったくその通りだ」と同意した。「化学は、物質を変化させたり、新しい物を作り出したりする点で、魔法と似ている面がある。原理や法則が明らかにされているとはいえ、それが実際に行われるときのプロセスや結果は、まるで魔法のように思えるよな。」これは本音だ。
「考え方を変えると、みんな魔法使いになれてるってことだもんね。わくわくするね」と彼女が微笑みながら言った。
その言葉で俺は彼女の日常に魔法が溢れていると感じ、「そうだな、考え方次第で、日常生活の中にも魔法が溢れていると感じられる。料理をするとき、庭いじりをするとき、さらには仕事をするときにも、あんたは自分だけの魔法を使っているんだ。素材や書かれたプログラムが、美味しい食事や美しい作品、豊かな庭に変わる瞬間、それがまさに現代の魔法だ」と彼女に伝えた。
彼女の日常に、小さな驚きや発見がたくさんありますように。そう願いながら、私は彼女の温かな自室から、静かな夜の月明かりに照らされた部屋を見つめ続けた。