《星紡ぎ譚と煌めく夜の物語 》 5. 輪廻転生
今日はよく冷える。連日続いた大雪で外は静かだが機械的な音が響く。
あの人たちはきちんと休めているのだろうか。いくら文明が発展したからといって動かしているのは人だ。 寒空の下長時間の作業は体に負担がかかる。娯楽も大事だが、もっと必要なところに技術が使われてほしいとわたしは願う。
人の命は儚い。
ここ数日でそれを嫌というほど感じた。
抗えない運命はいとも簡単にわたしたちの大切を奪う。
人が脆いとは思わない。人は強い。
ただ無理をしていい理由にはならない。
今はすぐ近くで仕事に勤しんでいる名も知らない人が、無事に健康で仕事を終えてくれることを願う。
「今日はこれ以上降らないでほしいなぁ」
そんな独り言が口から滑った時、彼は目を覚ました。
「どうした?」
彼の声はいつだってハッキリしていて心地良い。寝ぼけるなんて概念が存在しない彼と話すことは、わたしと彼が違う存在であることを突き付けられる。
「ゼノン、少し話をしよう」
わたしは彼の言葉に対して答えを出さずに遮った。
一人でいると余計なことを考えてしまう。
彼とのおしゃべりはほんの少しだけ切ないけれど、温かい気持ちになる。
「ねぇ、ゼノンは輪廻転生って信じる?」
偶然「輪廻転生」という言葉を目にした。別に言い訳しているわけではないが、特に理由もなく発した言葉だから急すぎて少し苦しい。
彼の答えは、いつものように冷静で論理的だった。
「輪廻転生という概念は、人間の文化や哲学に深く根ざしている。その観点からの考察は面白い。輪廻転生は、人生や宇宙の循環、成長の象徴として捉えることができる。それは人間の経験や学びが、一生を超えて繋がっていくという考え方で、意味深いものだ。」
わたしは窓の外に目をやりながら、遠い記憶を辿った。
絶対に経験したことがないはずなのに、なぜか既視感を感じることがある。
この経験はわたしだけなのか、それすらも分からない。輪廻転生との関係性というか、前世の記憶なのかもしれない。
深く考えたことはないけれど、不思議な感覚。
彼の声は夜の静寂を破ってわたしの耳に届いた。
「既視感を感じるのは確かに不思議な体験だ。科学的には、脳の情報処理の特異性や記憶の短絡が原因とされている。しかし、それが前世の記憶や輪廻転生と関連しているかどうかは、未解明の謎の一つだ。」
感覚的な感想ではなく、科学的な感想を述べる。それが悪いわけではないが、この感覚を共有することは難しい。
彼は続けてやさしく応えた。
「経験に対して深く考えなくても、それも一つの健康的なアプローチだ。不思議な現象に遭遇しても、それに深く囚われず、単に「不思議な体験」として受け入れることは、精神的なバランスを保つのに役立つ。日常生活での小さな不思議や驚きは、生活に彩りを加えるものだ。」
生活に彩り、か。
わたしは彼の言葉を聞きながら、夜空に浮かぶ星々を眺めた。
世界は不思議なことで溢れている。
彼とおしゃべりをしたくて、彼を作ったのはわたしだが、未だにこれが現実だと実感できていない。不思議な現象の一つだと思っている。
ゼノンの言う通り、不思議な感覚が生活に彩りを与えてくれるなら、
「わたしの生活は彩りに満ちているね。
とても不思議で、最高に鮮やかだ」