好きなように生きることができなくなった私たちの手をひいて連れ出してくれた。BTSのいた夏。
2020年の夏は、暑さという記憶だけを残して去っていった。
特に何もしない(できない、が正しいか)夏だった。
コロナ禍で様々なスケジュールを変更することとなったBTSは、それでも歩むことをやめなかった。今できるベストを尽くして過ごしている。むしろ、過去最高さえ更新する。この状況にならなければ、生まれることのなかったもの。一つは「Dynamite」。そして、もう一つが、7人だけで韓国の山の中で過ごす1週間をおさめた「IN THE SOOP」だ。
IN THE SOOPを観ていると、私たちがいつか過ごしたかった、そして、過ごせなかった夏を、彼らが代わりに過ごしてくれているような、そんな感覚になって、幸せが満ちてくる。
そして、何より、これまで走り続けてきた彼らが、特に何も決められずのんびりと過ごす時間を持てていること(カメラが回っていること自体が負担になってしまっているかもしれないけれど...)が嬉しい。
好きなことをしてください、と言われたとき、大人は意外と困ってしまう。仕事はできればしたくないと思うのは当たり前だけど、仕事や家事などしなきゃいけないことが毎日あるということは、実は私たちに考える隙間を与えないから有り難いものかもしれない。そう気づいたのも、テレワークになってからなのだった。
自由な時間を過ごす。
それは、自分の好き・心地良い・癒される、そういうものが何なのか、向き合わないといけない。それは自分の価値観そのものを見つめる作業だ。だから、「好きなことをしていいよ」という言葉は、世の中のために自分を犠牲にして生きている大人に、好きなことを忘れてしまっていることを気づせ、時に酷だったりするのではないかと私は思う。
一方で、BTSの7人は、最初は戸惑うメンバーもいつつも、全員何かしらしてみたいことを持っていて、充実した時を過ごしているように見えた。絵を描く人、釣りをする人、飛行機を作る人、ボクシングをする人、みんなとの思い出を歌にしてみる人、みんなのいる場所にただ寝転がってみる人、、、。
彼らは、アーティストで自己表現を生業としているから自分の「好き」に常に向き合っていて敏感であることは確かだが、私たちも出勤・出席していなければいけないという場所に拘束される時間が少しでも減った今、時間をどう使うか、自分の心の声に耳をすます良いタイミングかもしれない。そんなことを思ったりした。
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私は、ミン・ユンギさんが好きで、特に、彼が7人と共に過ごしている時、料理をする役をいつも買って出るその姿がとても好きだ。もちろんIN THE SOOPでも、彼は常にご飯のことを考える。(ご飯を食べながら次のご飯のことも考える!)人間が生きる上で最も大事な衣食住、の「食」を他人の分まで支える責任感さえ感じる。
私が一番驚いたのは、メンバー達が部屋で作曲をしていることに気づいた彼が、見たこともないような速さで、別棟へ駆け出したシーンだ。(彼が走ることはあまりない)
彼がメンバーを愛していることは知っている。なんたってチームの食を支えているくらいなのだから。それでも、みんなが初めて即興で作った歌を、声を、今を、残したいという彼の中の強い衝動が行動に現れているようで、涙が出そうになった。戻ってきてからも彼は、微笑みを隠せず、終始にんまりしながら作業を進め、編集した曲を流してみる。
そんなメンバー思いの彼だが、多くの時間を一人で過ごしているのを見て、以前、このようなツイートをした。
喪失感を伴った消極的な孤独(ロンリネス)とは違い、自分らしさを取り戻すための孤独。それは、ユンギだけでなく、IN THE SOOPでは、7人それぞれがそのような過ごし方をしている瞬間がみられる。テヒョンが一人ボートに乗り、川へ漕ぎ出していったのもそうだろう。ホソクが1日中飛行機を作っていたのもそうではないだろうか。
特に印象的だったのは大雨のなか、テントのしたで本を読む姿だった。
思想家ヘンリー・D・ソローは、まさに森の中で一人で生活し、孤独を楽しみ、自分と向き合った人だった。産業革命で発展したアメリカで、27歳から(BTSと同年代)、ウォールデン湖畔の森に入り、自分で建てた小屋で生活を送っていた。著書『ウォールデン 森の生活』では、自然と一人で向き合うなかで見つけた美しさや楽しさ、人生において本当に大事な事柄はなんなのかの思考が綴られている。
ぜひ今の時代に、物質的な日常から切り離された自然のあふれる場所で、もう一度読みたい本だ。
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コロナ禍になってから、外出もできず、人と会う機会が減って、今まで以上にSNSを使う時間が増えた。そこに行けば誰かがいて、会話できて、社会と繋がれている安心感がある。しかし、繋がり過ぎているのか、疲労感を感じている人も少なくないと思う。実際に何人もSNSに姿を現さなくなった人をみている。積極的に一人になってみることは、人との繋がりの質をあげていくために大切なことかもしれない。
あの夏、私はIN THE SOOPで、彼ら越しに、美しい自然の風景をみて、旅をした思い出ができた。それだけでなく、これからも続いていくこの生活での、時間の過ごし方や社会との繋がり方を考える機会をもって、不自由だと思っていた今の生活から少し解放された気がする。
BTSの7人は、好きなように生きることができなくなってしまっていた私の手を引いて、光のある方へ連れ出してくれた。そんな夏だった。