【今回のルール改正について】
2023年12月、国際フェンシング連盟(FIE)に
より試合時の対戦無意欲時のルールが改正された。
前回は2018年12月に改正、当時から
”Pカード(ペナルティー)”が導入。
この”Pカード”の導入は、
特にエペ種目の戦略面で大きな影響を及ぼした。
東京2020オリンピックの選考レースで
一番重要と言っても過言ではない
2019年の世界選手権の団体戦において、
男子エペチームは苦い思い出がある。
パリ五輪選考レースに向けて
同じことを繰り返さないために、
その当時のことを振り返ろうと思う。
2018年の改正時、日本フェンシング協会のHPで
掲示された和訳文書、口頭での説明を
鵜呑みにしてしまったことで、
Pブラックカードの認識を日本選手団全体で
間違ってしまっていた。この誤認により
世界選手権でベスト8に進出できるチャンスを逸し、
選考レースにおいて
世界選手権ではポイントを稼ぐことができなかった。
「ルールを制する者、試合を制す」とよく言うが、
この言葉を痛いほど実感した瞬間であった。
この教訓から降りてくる情報だけでなく、
自らルールブックの
原本を確認する習慣を身に付けた。
パリ五輪選考レース開始まであと2ヶ月。
ルールを制するべく、選手•関係者に向け
原本のルールブックの和訳と図解をもって
新ルールを解説する。
※先日開催された男女エペ グランプリ大会
(カタール/ドーハ)2023/01/27-29において
本改正ルールが発動していることを確認済み。
※日本国内においては2023年4月1日以降の試合に適用とのこと。
[重要]ルール変更についてのお知らせ[規定]
(リンクは日本フェンシング協会)
https://fencing-jpn.jp/news/29711/
t.124.
Unwillingness to fight
(Non-combativity)
-対戦無意欲-
1. Individual events
– Direct elimination
-個人(トーナメントのみ)において-
Pイエローカード、Pレッドカードは両選手に
同時に与えられる。1枚目はPイエローカード、
2枚目はPレッドカード(両選手に1点ずつ追加)、
3枚目はPブラックカードが与えられるが、
Pブラックカードに関しては以下のc)を参照。
a)最初に1分間対戦無意欲だった場合、
Pイエローカードが審判から両選手に与えられる。
b)次に1分間対戦無意欲だった場合、
Pレッドカードが審判から両選手に与えられる。
c)更に1分間対戦無意欲だった場合、
Pブラックカードが審判から与えられるが、
Pブラックカードは両選手に与えられることはなく
ⅰ)もし両選手の点数が同点だった場合、
FIEランキング(試合開始時点)に基づき
ランキングが低い方の選手に
Pブラックカードが与えられ、
ランキングが高い方の選手の勝利となる。
ⅱ)もし両選手の点数が同点ではない場合、
点数が低い方の選手にPブラックカードが
与えられ、点数が高い方の選手の勝利となる。
2. Team events -団体戦において-
Pイエローカード、Pレッドカードは
両チームに同時に与えられる。
1枚目はPイエローカード、
2枚目はPレッドカード(両選手に1点ずつ追加)、
3枚目はPブラックカードが与えられるが、
Pブラックカードに関しては以下のc)を参照。
a)最初に1分間対戦無意欲だった場合、
Pイエローカードが審判から
両チームに与えられる。
b)次に1分間対戦無意欲だった場合、
Pレッドカードが審判から両チームに与えられる。
c)更に1分間対戦無意欲だった場合、
Pブラックカードが審判から与えられるが、
Pブラックカードは
両チームに与えられることはなく、
ⅰ)もし両チームの点数が同点だった場合、
FIEランキング(試合開始時点)に基づき
ランキングが低い方のチームに
Pブラックカードが与えられ、
ランキングが高い方のチームの勝利となる。
ⅱ)もし両チームの点数が同点ではない場合、
点数が低い方のチームに
Pブラックカードが与えられ、
点数が高い方のチームの勝利となる。
3. In both individual and team competitions
-個人/団体双方に適用-
a)個人戦での試合、団体戦での試合で与えられた
いずれのPイエローカード、Pレッドカード、
Pブラックカードはその試合でのみ有効である。
異なる試合では継続されず無効である。
個人戦の試合では14-14の際に、
団体戦の試合では44-44の際には
いずれのPカードも与えられることはない。
b)Pブラックカードが与えられた選手•チームは、
対象の試合で負けたものとし、
結果として反映される。
(個人戦、団体戦ともに同様)
→その後順位決定戦があれば出場できる。
c)PイエローカードとPレッドカードは
対象の試合の間は有効である。
(個人戦、団体戦ともに同様)
d)対象の1分間は試合開始時に加え、得点発生時、
無効面打突時、打突不成立時、何かしらの
反則の打突時から計測される。
e)審判はいずれのPイエローカード、
Pレッドカード、Pブラックカードも
スコアシートに記録しなければならない。
対戦無意欲で与えられたペナルティは
他のペナルティには累積されない。
f)規定時間終了時に同点であった場合、
本条項は適用されない。→1本勝負に移行。
【踏まえてわかりやすく解説すると、、、】
●1分間無意欲と判断され
出されるカードの枚数と順番は以下の通り
(従来のルールからは
レッドカードが1枚消えている
※個人戦の予選プール(5本勝負)には
適用されない
●Pイエローカード、Pレッドカードは
得点の差に関係なく出される
●Pブラックカードは片方の選手/チームのみに
①得点で差がある場合低い側に
②同点の場合、世界ランキングの低い側に
(日本国内の場合は、
日本ランキングが適用されるはず、、
各試合要確認!!
●Pカードはいずれも、
その試合の中のみ適用される。
Pブラックカードが出されたからといって
退場やその後の試合出場制限等の
ペナルティーはない。
また、個人戦において14ー14、
団体戦において44ー44の際に
与えられることはない。
●Pブラックカードが与えられた選手/チームは
その試合で負けとなる。
しかし、
その後試合が残っている場合は出場できる。
(3位決定戦や団体戦の順位決定戦など)
●Pイエローカード、Pレッドカードは
その試合の間は継続して有効となる。
ピリオド/セットでリセットされない。
つまり団体戦ではなかなかにしんどい。
●1分間のリセットタイミングは
①各ピリオド/セット開始時
②有効面を突き得点が発生した時
③無効面を突いた時
④有効面/無効面を突いたが不成立となった場合
⑤ペナルティーによる打突があった時
④有効面/無効面を突いたが不成立となった場合
⑤ペナルティーが付与された時
この2つについては少々疑問が残る内容のため、
審判に確認中である。
④有効面/無効面を突いたが不成立となった場合
この場合はフルーレにおけるシュミルタネや
エペにおいて14-14からのクードゥーブルが
該当するが
床を突いた場合、交差をした場合、
選手が転倒/ケガをした場合、などなど
試合が中断されるケースは色々あるので、
ここは審判への確認が必要。
実際、現役中はよく
「今のは1分間のカウントがリセットされたか?」と審判に確認していた。
審判によって解釈が異なる場合もあるので
注意が必要。
⑤ペナルティーが付与された時
ここは”ペナルティーヒット”と表現されているため、
押し出し時やレッドカード付与時はカウントが
リセットされる。
Pカードではないイエローカードが出た時に
リセットされるかどうかは要確認。
ここも審判への確認が必要。
予想される本ルールを用いた試合展開
●リードされてもPイエローカード、
Pレッドカードは双方に付与されるため、
負けていても
余裕を持って試合を作ることができる。
●従来よりも
「Pブラックカードをかけたチキンレース」
の試合が続出すると予想。
特に個人戦における
世界ランキング上位同士の対戦では、
序盤にPイエローカード、Pレッドカードを
消費してしまうといった展開を
多く見ることになるだろう。
【最後に】
本ルール改正はサーブル、フルーレにおいては
そこまで深刻な影響を及ぼさないと予想するが、
どうかフェンシングの関わる全ての人に
理解しておいてほしい。
これは自らの経験に基づいた
「ルールを誤認して負ける」という、
ぶつけどころの無い敗北を
誰にも味わって欲しくないからである。
特に選考レース中には。
本まとめを読んでくれた人に対し、
チーム内で共有して1度は読む機会を作るよう
周知をお願いしたい。
スポーツはルールによって成立するものである。
ルールを制する者、試合を制す。
今後も国際審判員等からの情報を集め、
誤認や新しい情報があれば随時発信していく。
宇山賢Instagram
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