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【読書中座記】人の夢 バリー・ユアグロー
その夜に光ると聞いていた流れ星が見えるのではないかと、消した暖房の残り香で暖まった部屋の窓を開けた午前二時。ガラス戸は冷たく、夜の風が強く吹いていた。隣家の屋根越しに空を見上げると、冬の澄んだ天空に見慣れた星々。数十秒眺め、昔だったらこのまま車に乗って何処か暗がりを探しにいっただろうな、途中で誰かにメールして、返事が来る間も移動を続けて、結局誰も捕まらなかったとしても一人で佇む場所を見つけたはずだ、と自分に聞いてみる。冷えた窓を閉め午前二時の布団に潜り込んだ。
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目を覚ますとあっぱれという快晴の日曜午前八時。軽い朝食を済ませつつ、本を開く。バリー・ユアグロー『一人の男が飛行機から飛び降りる』
帯にはトーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンが「自分の夢をどうしても覚えていられない僕にとって、ユアグロー氏の小説は格好の代用品である」と述べたことが書かれている。「デューク・エリントンの曲の中でも僕がとりわけ気に入っている一連の歌のように、そこでは崇高と滑稽が合体している」とも。
短いものだと1ページにも満たない小さな話が149編。今朝はヘリウム入りの風船となって浮かんだ父を、丘を越えて追いかける母の話1.5ページ。そして、母と息子がお互いにそうとは知らず、仮装して向かい会ってしまった寂しさについての13行。
それだけを読み、本についている栞紐を挟み回して閉じた、つもりが、不意に栞紐が抜け落ちてしまった。薄く淡い水色のそれは鈍い光沢もあり一本の自由になった川だった。膝からそれを拾い上げ、源泉と河口に接続されていない稀有な小川としてページに挟み直した。次のタイトルは『難破』と書かれていた。
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パソコンのキーボードを打つと、ピンクベージュのカップに注がれたコーヒーの水面が外の青空を映しながらゆらゆらと出口を探している。
他人の夢も面白い。自分の夢ももっと面白い。ただそれを枕を手放し覚えていられるかどうか、上手に言葉に置き換えられるかどうか、自分が感じたと同じくらい楽しく悲しく不思議に伝えられるかどうか。誰の夢も面白い。もしつまらないのならば、それは伝える側の問題であり、夢自身はいつも天才だ。
fine
今日読んだ本→『一人の男が飛行機から飛び降りる』バリー・ユアグロー著/柴田元幸訳 新潮社