サムデイ・アット・マクドナルド
#シロクマ文芸部 約1,000字
朧月という、英語でGhost Plantという園芸種のひとつがあって、それは育てるのがむずかしい。そんなことを彼が言った。ただ話したいんだなあと彼をわたしはながめている。うなづきも相づちもしないのに、マクドナルドで熱を込めて語りつづけている。
おたがいの家(彼がアパート、わたしは実家)に近いからというだけでただいつもここを選んでいる。マクドナルド。そのあとはどちらかの部屋でベッドに入って、することして帰る。どちらともなく呼ぶ。なにもなくても会う。学生のとき、高校、いや中学のときだ会ったの。それ以来ずっと、そんな。
彼は花屋にも研究者にもならずただコンピュータの技術者、ああプログラマーか、そんなのになった。わたしはただの営業職になった。高校のときにカツアゲが得意だったし大学の学費の返済にローン組むとか卒業後も苦しむとかいやだったから、キャバ嬢よるにやって高3から大学3年の秋まででけっこう稼いだことが自信になっている。営業トークにほんと役に立っている、学生のときの経験。
ただなんか彼をたとえば卒業(笑)にしてやろうとか、どうにも思えない。やることやりすぎて、もう結婚するとかさえどうでもいい。ただ彼は話す。ところかまわず。それをわたしが聞く。奉仕とかそういうことでもない。
「ところでさ」とわたしが話しだす。彼がまだなにか話している、そう植物のこと、また植物のこと、それの途中で割り込んだ。
「わたしってほんとうにキミの目の前にいる?」
彼が完全に止まった。口は半開きだし手も足もなにも動かさない。ただ、わたしの目を見ている。
「なに?」
「12年前、会ってから、ずっと話しつづけてて、だよ。初めて君がさ」
「だからなに?」
「初めて君が話しはじめた」
そう言って彼は泣きはじめた。うそだろ、え、そんなことないじゃん? え? まじで? あ、あー……
ほんとうに?
彼は自分のパーカーのそでで涙を拭ってわたしを見た。
「君が、いなくなるのが怖くて、話しつづけていて、だから、もちろん、いるよ、僕の目の前に、西田花代さん、君、いるよ」
わたしは彼のことを彼の話を彼がいることをすべて忘れて彼の目のまえにただいただけなのか。わたしは話した。
「キミといること、いやじゃないよ。好きだよ」
彼が両手で顔を覆い、大きな声で泣きだす。わたしは彼の身体をテーブルごしにだけどそんなのいいから抱きしめたくて立ちあがり両手を伸ばした。
コーラのLとスムージーのSがあたしのスウェットの袖にひっかかかって、トレイのうえで倒れて流れ出す。
初稿掲出 2024年3月18日 午後
お読みいただき、まことにありがとうございました。この作品はシロクマ文芸部参加作品です。
無印良品のA5のB罫ノート、見開き2ページ縛りで、ペンで手書きしたものをiPhoneでフリック入力する方法を初めてとりました。物理的に文字制限できるし、これはこれでいいかも。