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:0112 #凪組アンソロジー を20名ずつすべて読む ①渡辺めぐみ さん〜高平九 さん編

本気で100名の詩を読みます
「うたもも」として活動して2年ほどになります。そんな私からすると新鮮でない詩のほうが珍しいわけです。まだまだ詩世界を色鮮やかに捉えられる新人として、100名のすべての詩から楽しむ・学ぶことにしました。

読む計画

100名はこのように分割して紹介いたします。知識がないゆえに、ゲストとして寄稿してくださった渡辺めぐみさんと和田まさ子を除いて、どなたがどなたより詩人としての暦が長いなんて事情は詳細には把握しておりません。すべての方が人生の大先輩方(大雑把)です。失礼な表現がありましたら、申し訳ございません。

①渡辺めぐみ さん 〜 高平九 さん 編 (今回)

1.渡辺めぐみ 2.和田まさ子 3.草野理恵子 4.橘 しのぶ 5.雪柳あうこ 6.椿 美砂子 7.黒田ナオ 8.白島 真 9.灘 奏子 10.鈴木 奥 11.吉川彩子
12.天乃絵留 13.滝本政博 14.野宮ゆり 15.薮下明博 16.鳥井雪 17.まほろばしじみ 18.星野 灯 19.水木なぎ 20.高平 九

②妻咲邦香 さん 〜 オリエンタル納言 さん 編

③池田竜男 さん 〜 瑠璃 さん 編

④ yellow さん 〜  リウノタマシイ さん 編

⑤うたもも 〜 石川敬大さん 編


※プロフィールは常体にし、各名称の書き方を他の方と統一するために変更している箇所があります。



1.渡辺めぐみ さん 『生誕』

『生誕』
夜、考えて時間が過ぎる。「夜のために奉仕する必要などないのだから」という言葉選びで気付かされる。眠ることは夜に課された義務のようだ。本当に義務なのか疑って目を開けてあらゆる事象を観察する。
わたしは眠りたくて毎晩寝ていると思っていたけれど、「眠れなければ眠らなければいい」。夜だから眠るなんて、自由にさせてくれと。眠ると記憶が定着すると科学的には言われるが、まだ起きているものたちを忘れそうで、眠るって嫌ですね。

渡辺めぐみ さんのプロフィール
このアンソロジーのために発行人の石川敬大がゲストとして原稿を依頼。日本現代詩人会理事(詩集賞担当及び入会審査委員)。第28期~31期「日本現代詩人会詩投稿欄」選者。世田谷文学賞詩部門選考委員。「詩と思想」書評委員。第63回H氏賞選考委員。第24回、第28回、第33回日本詩人クラブ新人賞選考委員。第30回国民文化祭・かごしま2015詩の賞最終審査員。詩集に『昼の岸』(2019年、思潮社、第50回高見順賞、第38回現代詩人賞他最終候補)など5冊。萩原朔太郎生誕120年記念・前橋文学館賞、第21回日本詩人クラブ新人賞、第11回日本詩歌句大賞他受賞。


2.和田まさ子 さん 『夜になってわたしは』 

『夜になってわたしは』
ヤモリ>わたしの関係性。どれほどヤモリは強いのだろうか。ヤモリに食べられることを歓迎しているわたしは、捕食のヒエラルキーに反しているように見える。しかし、ヤモリが人間よりも大きかったら。ワニのように人間を食い尽くせるだろう。人間は最強ではない。そんな緊張感を楽しみたいから、単調な生活を返納する。
平成11年(1999年)生まれのわたしからすると、家でヤモリに出会えたことはないからその憧れはわかる。夏、虫が湧くときにだけ自宅で自らの生命について考えられる。本来はこの虫に食われて静かに人生を終えるような存在ではなかったか人間は。

和田まさ子 さんのプロフィール
このアンソロジーのために発行人の石川敬大がゲストとして原稿を依頼。
個人詩誌『地上十センチ』を発行。詩集として『わたしの好きな日』『なりたいわたし』(H氏賞・小熊秀雄賞最終候補)『かつて孤独だったかは知らない』(H氏賞最終候補)『軸足をずらす』(第34回詩歌文学館賞受賞・萩原朔太郎賞・H氏賞最終候補)『よろこびの日』(現代詩人賞最終候補)(以上すべては思潮社刊)。2021年第71回H氏賞選考委員。「紙で会う ポエトリー 2023」編集発行人の一人。「福間塾」「生き事」会員。

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3.草野理恵子 さん 『チョーク』『腕の封筒』

『チョーク』
人間への認知感覚が疎くなる代わりに馬への真摯な態度。私(姉)が妹のために馬に会うことにした心の温かさ。もしかしたら、ポケットのチョークは幻想なのかもしれないと感じたが、「チョークが妹の爪にめり込んで」という描写で現実だと証明された。これはずっと忘れない。認知症だから、一般的にはみっともない立居振舞をする人と認識されていただろう。それでも馬たちに賞賛された妹はとても瑞々しい少女だ。

『腕の封筒』
腕とは。わたしは岡本太郎が好きなので『痛ましき腕』を想像した。その絵画のせいか、以前弟の左腕を切断する夢を見たことがある。あのときに夢で見た弟の腕の断面を思い出す。
上記は嫌な経験だったが、この詩では私と腕の持ち主と心地よい共存をしている。腕が入る封筒があるなんて面白い表現だ。手紙をずっと書いていると肩が凝ることもある。手紙を書く行為は腕を捧げることにもなる。そんな肩凝りがあったのだろうか。

草野理恵子 さんのプロフィール
詩集『パリンプセスト』は「横浜詩人会賞」と「日本詩歌句随筆評論大賞優秀賞」を受賞。詩集『黄色い木馬/レタス』は「北海道新聞文学賞」で佳作。『有毒植物詩図鑑』は「日本詩歌句随筆評論大賞奨励賞」を受賞。他に、『世界の終わりの日』など。詩誌『Rurikarakusa』に参加。


4.橘 しのぶ 『線香花火』『一年』

『線香花火』(第三十三回伊藤静雄賞 佳作)
「はずしわすれた風鈴」という夏が過ぎ去った後。「おなかの中に底なしの血だまり」とは何かの病気だろうか。病名はそこまで重要ではなくて、その生命まで含めて線香花火か。
最近わたしは祖母を老衰で亡くした。確かに死は点ではなく線のようなものだ。持病はあったが、持病と関係なく亡くなった。ゆるやかにご飯を食べれなくなり呼吸ができなくなった。ああ、生と死は寄り添っている。

『一年』(二〇二三年一月 中国新聞 掲載)
あのときの猫がさみしがり屋に佇む。「この場所から全速力で走り去るほかない」とは、異世界系怪談にも聞こえる。「ひとりごとのような雨」は私にしか見えない聞こえないのかもしれない。あのときの猫への愛着をキッパリ切り離さなければならない場所。
そう思わせるさみしがり屋に、わたしが訪れたときに何に出会えるのか考えた。

橘 しのぶ さんのプロフィール
詩集『道草』は「日本詩歌句随筆評論大賞奨励賞」を受賞。ことばを愛し慈しみ、私らしい詩を書いてゆく。


5.雪柳あうこ 『凪』

『凪』初出:朝日新聞夕刊「あるきだす言葉たち」 2023年8月2日
『凪組Anthology2024』にぴったりすぎる詩。凪の空間に読者を置いてくれる。どこかの海で考えすぎないで感じるだけ。「短い返事」とそれだけで十分。こうやって感想を書くのには向いていない詩でもある。みなさん、誌面で向き合ってください。

雪柳あうこ さんのプロフィール
2019年より詩作開始。「第五回永瀬清子賞」受賞。「詩と思想」新人賞。2021年に土曜美術社より『追伸、この先の地平より』を販売。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加し、2023年より「La Vague」にも参加。


6.椿 美砂子 『ふたつの指先』

『ふたつの指先』
ひらがなばかりの詩の中に、「指先」と「残骸」が際立つ。この一回だけ書かれた「残骸」とは。はっきりイコールで示されないだけで、「残骸」は全体を読めばいくらでも見つかる。「いいたいことがありすぎて」まだ「しあんしている」のだから数式のようになんでもイコールで結びつけなくてもいい。「さめかけたこどう」で、『ふたつの指先』はどうなってしまうのだろうと感じた。とても仲がいいわけでもないけれど、仲がいいからいい出せない関係?

椿 美砂子 さんのプロフィール
1960年生まれ。新潟県在住。詩集『青売り』『青の引力』。幼少期より詩作開始。



7.黒田ナオ 『野球中継は流れる』 

『野球中継は流れる』 
「口に含んだ見えない枝豆」という表現。野球中継に夢中だからどんな枝豆だったかなんて見ていられないのだろう。そういえば、最初は見ていたのではなく聞いていたのではないか。「若い売り子たちのにぎやかな声」を読む頃には、野球場で楽しんでいる詩かのように勘違いする。「風のなか〜」でいけないいけない、ただ聞いていただけと戻される。こうして勘違いさせる文章、書けるようになりたいですね。

黒田ナオ さんのプロフィール
このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」や、「どぅるかまら」に参加。


8.白島 真 『山伏』

『山伏』
序盤の現世ではない描写。そこから始まる鮮明な記憶。「凍るような憐れみ」は余命幾ばくだから投影したのだろうか。前世とは。答えを出すような詩ではない。
わたしは小学生のころ、ジャングルジムから強そうなカラスを見上げるのが好きだった。この彼にとっての山伏もわたしにとってのカラスみたいなもので、そもそも山伏は烏天狗と言われる装束を着ている。だからわたしもこの詩に投影している。友達がたいしていなかったから、孤高のカラスに自分の人生を重ね合わせていた。

白鳥 真 さんのプロフィール
2017年に七月堂から詩集『死水晶』を出版。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」や、「イリプス」「月光」に参加。2020年3月号より1年間「詩と思想」で詩詩評を担当。


9.灘 奏子 『或る男の肖像』 『標本少女』

『或る男の肖像』 
どうしようもない口先だけの男。人を信じられないから、そのへんの女を抱く。その女とセッションするひととき。「作り話でも物語る時には、足元に影が出来た」だけが救い。嘘が本当になろうとしている。元々本当だったものも嘘に合流するだろう。肖像は嘘や誇張もある。この肖像をぜひ見てみたい。「仮面を外す自分を夢想する」とありながら「愛でさえも酷く重たい」と捨てたがる。どこまでも無責任な。

『標本少女』
標本少女は心が折れすぎて標本になってしまったのか。具体的に何があったかは知れない。「浜は何処へも通じていない」通じていたら舟が何処からかやってきてくれるのだろうか。浜が道だと、方向が定まりすぎている気がする。あらゆる方向から誰かがやってきそうなのにやってこない。だから、より涙が重い。
「骨は疾うに砕け〜」あたりが特に好きです。家の片付けをするときに、出てきた手紙のような未来に辿り着けずに悔しがったりする。自分の骨のようにわたしはあの時代を見ては祈っていたのか。

灘 奏子 さんのプロフィール
横浜市在住。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加。詩だけでなく、短歌も作る。色んな場所で詩を発表したい。


10.鈴木 奥 『蟹味噌』『白樺と沢蟹』

『蟹味噌』
母は蟹味噌が好き。母が子どもだった時代まで想像しているのだろうか。「頭の潰れた海」「白い血液」など不思議な表現が多く、わたしは簡単にわかるとはいえない。今調べて、世の中には蟹味噌が詰められた瓶があるらしいと知識を得たぐらいだ。かつては味噌でない部分にも食らいついていたのだろうか。わたしはまだ若いから面倒くさがらずに蟹の甲羅を叩いて砕き、隅々まで食す。老化したら出来なくなることもある。でもまだ蟹が好きなんだなぁ。

『白樺と沢蟹』
これにも蟹が出てきた。溺れた言葉を発して、懐かしい初夏に出会う。「わたし」とは蟹か。「白樺が沢蟹の子を産んでいた」ならば白樺は母か。これも決めつけすぎては良くない詩だ。好きな表現を挙げるならば「鳥居をくぐりながら、わたしは流されていった」「わたしの幹は切り開かれた」「沢がすっぱくぬめっています」「黄緑の影が横歩き」あたりですね。

鈴木 奥 さんのプロフィール
2022年より詩作開始。「ココア共和国」傑作。「詩と思想」入選。「現代詩手帖」選外佳作。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」「Wonder」や、「聲℃」に参加。


11.吉川彩子 『遠景』

『遠景』
「落としたペットボトル転がって一瞬万華鏡」ああ綺麗だ。万華鏡をわざわざ買わずとも綺麗なものは見れる。「出合いがしらに滅んでいくもの」とは何だろう。あらゆる遠景。簡単に景色は移り変わる。留まりたいけれど、早い。単語がぽんぽん配置され、助動詞を振り切る文体。細かい改行はないから、この文章の塊は車窓のように見える。春夏秋冬の車窓の先、電車で乗り込んでまた違う春夏秋冬に行くのだろうか。

吉川彩子 さんのプロフィール
2007年から詩作開始。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加。日本現代詩人会や中日詩人会に所属。2019年に土曜美術社より『永遠と一瞬のあいだは水色』を出版。


12.天乃絵留 『影を洗う』

『影を洗う』
「洗う者」と「洗われるモノ」。こういうところが細かい。もうモノになってしまっても、嫉妬はまだしている。一方的な尊敬はしていないとは言う。本当にそうとは言い切れないが。「気後れの白秋にうなだれた」と、告別のときの所作が美しい。ただ「うなだれた」とは違う。時の流れによりうなだれている。陰陽五行説に基づいて、季語のある俳句のようだ。色をうまく利用できている詩。「蝶の翅が陽をさえぎる」なんて、これは黒か。空を見上げてしまう。


13.滝本政博 『春』『冬の言葉』

『春』
「鍵を開けるには あなたが必要というわけ」にぎやかな春の末にまだ侵入できないエリアがある。もはや春としか思えない暖冬(2024年2月)に読んでよかった。こんな春が間近にある。今年も楽しみだなぁ。
「睫毛の上のダンス」。大学時代のサークルでバサバサのつけまつげをつけてベリーダンスを踊っていたものからすると、お寺での花祭りを思い出してより心が躍る。「素肌に薄物をはおった季節の香り」もジプシースタイルの水色の大きなピンクの花柄のトップスを重ね合わせて読んでいた。

『冬の言葉』
雪は色を奪うが、形をくっきりさせる。「言葉も言葉の形に」なる。雪は余計なことを考えさせない。物体の羅列で浮かび上がる町。文章を載せる行はまだあるが、この余白も含めて冬。このくらいの文章がちょうどいい。わたしも現在制作中の詩集で、余白も含めて設計しよう。ギチギチに行を満たすためだけに書き連ねるのはよくない。

滝本政博 さんのプロフィール
1959年生まれ。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」や、ネット詩誌「MY DEAR」に参加。「ココア共和国」隔月投稿。「第三回秋吉久美子賞」受賞。


14.野宮ゆり 『錬金術』

『錬金術』
おいしい錬金術。ジャムで例えて詩の作り方を解説している。「多くの嘘と 少しの真実の隠し味」が詩人のあるある。作品として面白くするためでもあり、この表現ではあの人を傷つけてしまうようで嫌だなぁと嘘も用いて「ありがとう、さようならと」別の物質に変える。「時間薬の魔法も程よく作用した」とあるように、体験してすぐにいい詩が思い浮かぶとも限らない。「果肉にひそむ歪な種たちは 喜怒哀楽の句読点」で、本に貼りつくイチゴのタネを想像する。全くイチゴなんて書かれていないのに。直接的に書かなくても伝わることもある。

野宮ゆり さんのプロフィール
このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加し、「La Vague」にも参加。


15.薮下明博 『儀式ー薔薇の掟』

『儀式ー薔薇の掟』
大人で怖い雰囲気。24歳はなにもわからず20往復は読んだ。これは隠喩だろうかと指でなぞったが、ここで推理を披露していい詩なのか。紅と黒の印象が強く、鋭利な棘は緑のはずだがすぐ紅く染まる。よく見れば詩の中央に*がある。何があったのか。すみません。わたしの経験値が足りません。

薮下明博 さんのプロフィール
1962年、北海道函館市生まれ。建築家・詩人・幻想フリーライター。季刊『幻想文学』を中心に書評・エッセイを発表。「幻想卵」後期に参加。



16.鳥井雪 『海鳴り』『幼年体』『メリー・ゴー・ラウンド』

『海鳴り』
「ざざーん」の海だけでないことに気づく子。「波は 海は 自らの重みに耐えかねて崩れる」確かにそうだ。液体は上へと積み重なれない。プールのように強固な壁があるわけでもない。親の海での経験も「積み上がり そして崩れる」。遠景と捉えられる「朝方の」から動作が伴う「泳ぐはずでは〜」まで、少しずつ体験の粒度が細かくなる。
わたしは夏休みに祖父母のいる大分の静かな海で泳いできたから、音をただただ聴いた経験がある。しかし、わたしの在住地の神奈川の湘南の海だと人が多すぎて波や海の音だけをじっくりと聴けない。いまや貴重な経験。

『幼年体』
五行の短い詩。子の活動パターンは一つではない。泣いてもエネルギーを消費し、笑ってもエネルギーを消費する。「汗ばんだ腕を掻く」なんて、掻くから余計に痒くなるものだけれど痒いから掻く。どちらの子も元気だなぁ。こうして寛容にどちらが悪いなんて決めつけない教育をしたい。

『メリー・ゴー・ラウンド』
子どもを育てることで、自分自身の子ども時代を振り返る詩が得意な方ですね。ずっと生命が丸く繋がる世界観だからランドではなくて、「ラウンド」。「スピーカーから 音の割れた音楽が流れ始める」とあるが、雨に晒されて機材が壊れてしまったかのような音を鳴らす某テーマパークを想像できる表現で好き。子育てのいいところとして、ネガティブゴーストの巣窟のSNSに放流したい。

鳥井雪 さんのプロフィール
詩と海が好き。


17.まほろばしじみ

『碧落』
とにかく遠くへ行きたいと思わせるほどに、どうしたらいいかわからない現在地。「霧がかかったビルの上の 天気予報の正解が 外れた場所へ着けるだろうか」と、天気予報はいつでも雲があるのが当たり前のようだ。
現代社会に無理やり当てはめようとすれば、失われた30年間に生まれた世代が、「生きていてよかった」と喜べる労働環境に辿りつくぐらい難しい。バブル世代がいい条件で働いていたことが不可解でより霧がかかる。それでも、世界の果て、青空へ。比較的若い読者が投影しやすいと思う。

『熱に帰す』
「閉じた町 凍てついた空気」で「壊れたストーブを蹴り」とある。未来のない限界集落を想像した。「熱を知り、熱を誤り、後戻りさせない人を知っている」について考えている。文化か興行か希望か。「後戻りさせない人」は閉じた町に根付く人だろうか。最後には淡々と町の定時。帰省しにきた若い世代が、街に戻るころにはまた冷たくなる。
わたしの大分に住んでいる祖父母にもこんな気持ちがあったのかもしれない。

まほろばしじみ さんのプロフィール
このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加。「ココア共和国」で傑作・佳作・4コマ誌。「詩と思想」佳作。「現代詩手帖」佳作。


18.星野 灯 『水晶体』『大人になっても』

『水晶体』
「上と下に瞼があった」は当たり前ではあるが、ここで水晶体がこころから目に転換しているのだろうか。「花は枯れた」の後に「紛失届を出しにいこう」なんて枯れた花は嬉しいだろう。公的機関は、花があるなしやら生まれた亡くなったなんて気にしてくれない。
「自己宇宙」はわくわくする。昔、中学の合唱コンクールで大人気のあまり全クラスでじゃんけんして取り合いになった曲にも自分も宇宙であると歌う曲があった。だからこの表現は好きになってしまう。

『大人になっても』
行数を踏まえて「つまらない」の位置がいい。ひとりはつまらない。実家があるありがたみ。自我なんてはっきりしたものが大人になったらカチッとできるわけではない。「錆びれた目」はいい意味でも悪い意味でも感じることがなくなってしまった。反復する夜と朝、永遠に繰り返しても成立しそうな詩。最後に反抗して「滑稽な踊り」をするところは、実家暮らしのわたしでもしてしまうことがある。一人暮らしって不健全だ。

星野 灯 さんのプロフィール
2021年に「神戸新聞文芸年間大賞」を受賞。「ユリイカ」佳作。「カフェオレ広場」に参加。2023年にミニ詩集『空が青くない日でも』を発行。2023年11月に詩の個展『街に詩があればいいのに。』を開催。


19.水木なぎ 『傷つける』『Stay White』

『傷つける』
気にしすぎな性格で、やらかしてしまった情景が思い浮かぶ。「そんなに気にする?」と言われても傷つく。他責があまりにもできないのだろう。「人は変わることもある」と信じて人間関係を構築することは、いけないことではない。不躾にトラブルの原因解決のための会議を開催するわたしとは正反対の立場。わたしのような人間の方が相手を傷つけてしまっている。

『Stay White』
白黒思考。あらゆる白いものが真っ白でなくていいと許す成長。生活用品にあるグラデーション。対人関係での責任のグラデーション。わたしは思春期のときの日常を顧みて、あの分割しきれない世界への苛立ちを思い出した。そもそも言葉で分割しきれないのに。

水木なぎ さんのプロフィール
詩とエッセイを書く。このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加。「ココア共和国」で佳作。「神戸新聞」で入選。


20.高平 九 『みどりいろのレシート』『猫と話せないのは猫のせいではない』

『みどりいろのレシート』
わずかに聞こえる声と以前得た知識で目の前の女性がどんな人か推測する。確かな事実はみどりいろのレシートのみ。みどりいろのレシートはすごい得をするものでもない。いつまでも不可解。それでいい。

『猫と話せないのは猫のせいではない』
わからないことを楽しめる人は、詩を楽しめると思う。猫を見つめながら、あらゆるわからないことを認める。視野の広い今の世の中に必要な詩。わたしは転職活動をしているが、その過程で感じたことのある不寛容な質問を思い出した。

高平 九 さんのプロフィール
このアンソロジーの発行人でもある石川敬大さん主宰の「凪」に参加。「ココア共和国」への投稿は4年目。詩を書く動機は、せめて自分の言葉だけでも確かにあることを知りたいから。


次回

20名分に本気で向き合っていたら、また9000字も書いてしまいそうです。時間はかかってしまいますが、すべておもしろいので時間をかけて拝読します。

お知らせ

わたしは個人で文学フリマ東京38に『この紫陽花が、うまい!』という出店名で参加させていただきます。この凪組Anthology2024に参加した詩人のどなたかにはお会いしたいです。それまではどなたの詩も拝読しておりますので何かしらお話はできると思います。

新刊 『詩集 作品は生命より重い! 美高美大の異常に平常な日常』の表紙です。
詩集の内容はこのようなイメージです。

今回から東京会場ではチケットが必要です。お忘れなく。


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