「治しちゃダメだ」「とことん死んでください」というふたつの言葉が私を救った。
私は、ほとんどの助言に対して、「ほっといてくれ、私は私のやり方でやる」としか思わない。
そもそも、頼んでもいないのに、なぜ助言してくるのかわからない。
ただ、聞くということがなぜできないのか。
だが、助言の言葉がズキュンと私に響いたことが2回だけある。
ひとつは、私の恩師でもあり共著者(『ヘンでいい』を共同執筆)でもある精神科医の斎藤学氏の言葉。
今では信じられないが、かつて私は、自己否定がひどくて、怒りの強い自分にいつもダメだしをしていた。
そしてウツになって精神科医の斎藤学氏と出会ったわけだが、彼は私に、「あなたは治しちゃダメだ。あなたのエキセントリックなところがおもしろいんだから」「あなたが私を批判する時の論理体制はおもしろいから捨てちゃダメだ」と言った。
すごいなー。
ここまでの完全肯定。
プロ中のプロは格が違う。
もうひとつは、
日本にファシリテーションを紹介した現・東工大教授の中野民夫氏の言葉。
25年以上前で、まだ日本にファシリテーションという言葉もなく、中野民夫もファシリテーションを日本に紹介する前の頃で、彼がまだ博報堂の社員だった頃のことだが。
当時私は、ウツで人生最大のどん底を漂っていた頃だった。
とある場所で中野民夫と知り合った私は、彼に、「自分はいま死と再生の、死の部分にいるのかもしれない」と話した。
(シャーマニズム的な考え方で、人間は成長するために、いったん古い自分が死ぬという考え。中野民夫はシャーマニズムとかに詳しかったので、あえてそう言ったんだと思う。)
そうしたら中野民夫氏はこう言った。
「とことん、徹底的に死んでください」と。
責任もとらずに、私を中途半端に上げようとする者の助言に辟易としていた中で、中野民夫の言葉に救われた。
この言葉を聞いて、無理に自分を上げようとしないで、今のどん底の自分をとことん味わい、楽しもうと思えた。
そして、そこを味わい尽くしたら、案の定、孵化するようにまったく新しい自分が生まれてきた。
あの時、死に切らないで中途半端に浮上していたら、同じところを行ったり来たりしていたと思う。
さすがだ。
その後、広告代理店の会社員だった中野民夫氏はファシリテーションの第一人者になるわけだが。
多くの助言は、自分の不安から発せられていることが多い。
いい人に見られたくて。
何も言わない不安に耐えられなくて。
何もできない無力感に耐えられなくて。
自分の不安からがほとんど。
でも、助言された側は、それが親切のていを装っているから、ノーも言えず逆に苦しむ。
ただ聞いていることがなぜできないのか。
こうやって、相手の現状をただそのまま深く深く肯定する言葉は、相手の力を引き出す。
そこに自分の解釈をのせると、相手の力を奪ってしまうのだ。
余計なことを言うくらいなら、上の二者のように徹底的に肯定つくす力がないなら、ただ聞いているだけの方がマシだし、それだけで十分だ。