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自殺未遂日記

死にたい。消えたい。自分なんかいらない。それは普段から思っていることだけれども。

その「自分なんかいらない」を如実に実行してしまった記録を、ちょっと書いておこうと思う。

こんな馬鹿みたいなことを書く気になったのは、多分、最近読んだ小説のせい。


精神科に入院した。仔細は覚えていないけど、主治医に「カウンセリングで入院を勧められています」と言ったらあれよあれよと言う間に入院が決まってしまったのだ。入院生活にはどうにも違和感があった。何故か辛いときに辛いと言うことができなくなってしまっていた。

その日は何だかみんな調子の悪い日だった。ある子は発作を起こし、別の子は意識を失ってしまった。(※無事でした)

私はと言うと、実際調子が悪くて、勉強しながら涙を止めることができなかった。

わかっている。心理的に負担がかかっているから入院したのだ。思う通りに思考なんて、勉強なんてできるはずがないのだ。だから、辛いと思ったら勉強をやめて休むつもりだったのだ。

それなのに、やめられなかった。

「勉強できなければ自分には何の価値もない」という考えが、みるみるうちに私の心を削っていった。そのとき、休むなんて言葉は、私の心の中には微塵も残っていなかった。

夕食が配られたので、部屋に帰って、ひとしきり泣いた。私の泣き声を聞いた看護師さんが声をかけてくれたのに、そのせっかくの機会は自分で無碍にしてしまった。「大丈夫です」…なんて心にもないことを言って。

その数分後(多分)、自分を傷つけたい衝動でいっぱいになった。刃物は当然どこにもなかった。病院だから。ペンで体を刺しても良かったけど、ペンが没収になるのは嫌だなあ、勉強できなくなるしなあ、と絶望感とは対照的に呑気なことを考えていた。こんな時でも、まったく、私は勉強のことしか考えていない。呆れたものである。

そこで目についたのは洗剤だった。

飲んでしまおうと思った。

飲んだ後どうなるかなんて考えていなかった。ただ、自分なんてもういらないと思っていた。

キャップに目一杯洗剤を入れて、一思いに飲んだ。…と言ってもキャップの1/3ぐらいが飲めただけだった。喉が絞られるように痛かったのだ。

ナースステーションに行った。洗剤を飲んでしまったのだと打ち明けた。なんで打ち明けたのか自分でもわからない。やってしまったことは報告しないとなあ、というこれまた呑気な気持ちからだったのだと思う。

どうして洗剤を飲んでしまったの、と言う看護師さんに「ただ勉強ができなかっただけなんですけど…」と薄く笑いながら言った。看護師さんは真剣な表情で「『だけ』なんかではないですよ、それだけ空木さんにとって大事なことだったんですよね」と言われた。その言葉だけでもちょっと救われた気がした。

当直の先生が来た。水を飲んで吐くのが良いだろうとのことで、水をコップに1杯入れてもらって飲んだ。先生が「中毒センター」なるところに電話している間に、胃の内容物をそっくりそのまま吐いてしまった。夕食はほとんどとれていなかったので、「胃の内容物」とは言っても実際は洗剤の入った胃液だった。

苦しかった。ゲェゲェと吐いた。

「馬鹿みたい」

泣きながら呟いた。本当に、馬鹿みたいだ。洗剤特有のケミカルな芳香と涙が混じった。

当直の先生が飲んだ洗剤の量を確認した。「少ない量なら良かったです。もしかしたら死ぬより辛い目に遭ってたかもしれないから」と先生は言った。この時、私は初めて自分がしたことの重大性に気づいた。

そっか、私、本当に死ぬかもしれなかったのか。

あんな一瞬の決意だけで。

不思議だと思った。死ぬのは嫌だなと思った。それ以上に、死ねずに死ぬより辛い思いをするのはもっと嫌だなと思った。事態がどう転ぶかなんて、結局運でしかないのだ。きっと。

その夜は「保護室」に入ることになった。トイレとベッド、そして防犯カメラしか置いていない、究極に安全な部屋だ。手洗い用の水を勢いよく飲み、また吐いた。何度吐いても洗剤の匂いは体から消えてくれなかった。

洗剤を飲んだ影響を考慮して、その日の夜飲むはずだった薬は飲めなかった。一種のペナルティのようにも感じられた。スマホもない部屋で、(睡眠薬がないので)寝ることもままならず、そういえば寝ることを禁じられたゲームのキャラクターがいたっけか、なんて、またくだらないことを考えて気を紛らわせようとした。結局2時間ほどは眠れなかったんじゃないんだろうか。大学生なので(?)よく「虚無だわ〜」なんてふざけて言うけれどホンモノの虚無は格が違う。かなり苦痛。結局あまりにも落ち着かない&寝られないので頓服薬をもらって、なんとか寝た。保護室は二度と入りたくないですね…。

翌日、たくさんの看護師さんに声をかけられた。フランクに話しかけてくれた人もいた。怒られもした。謝られもした。長い時間看護師さんと話し合った。洗剤を飲んだせいで、いろいろな人に話してもらえるなんて悪い気がした。こんな馬鹿な子に時間なんて使わなくていいのに。


これが顛末。

馬鹿みたいなことをしちゃった子のお話。

馬鹿みたいなことをまたしてしまいそうな、寂しいお馬鹿さんのお話。

ではまた。



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