もういっかいよんで、と言ったから
ぎゅうぎゅうねばねばぎゅうぎゅうねばねばぎゅうぎゅうねばねば
この独特な言葉のリズミカルな響きが、息子の声と舌っ足らずな言葉たちとともに、最近私の頭の中を駆け巡っている。
2週間ほど前、息子が保育園から1冊の絵本を借りてきた。
息子が自分で選んだんだって。担任の先生が言ってたよ。その日お迎えを任せた夫から報告を受け、専用の袋に入れて持って帰ってきたその絵本は、息子が好きな乗り物でもアンパンマンでもきかんしゃトーマスでもなく、表紙には笑顔の納豆さんたちが描かれていた。なるほど。なかなか面白いセンスだ。
なお、息子は実際に納豆を好んで食べるけれど、特段そればかり求める、というほど殿堂入りしているわけでもない。どちらかというと最近豆類全般を好むようになったから、納豆は「おまめさん」として食べられている印象である。
一見、「なんでこれを選んだんやろう?」なこの絵本を、息子はたいへん気に入って、特に夫に何度も何度も読むようせがんでいた。
ぎゅうぎゅうねばねばぎゅうぎゅうねばねばぎゅうぎゅうねばねば
おしくらまんじゅうしながら、恐らくテーブルの上を移動していくなっとうさんたち。すると、そのうちの数粒が勢い余ってテーブルの端から落ちそうになる。仲間たちが持ち前の粘りで引き上げようとするも叶わず、そこに救世主「お箸さん」が現れ、ほほいのほい、と納豆さんたちをもとの位置に戻し、よかったよかった。みんななかよくぎゅうぎゅうねばねば、あったかご飯にはいどうぞ、というお話。
一度「なっとうさんよむの~」が始まると、「もいっかい」「もいっかい」が続く。夫は時にリズムを変えながら、時に息子にセリフの一部を読ませながら、根気よく付き合ってくれた。
繰り返されるぎゅうぎゅうねばねば、のフレーズがリズミカルで耳に心地よく、他のセリフも短くて、絵だけでも展開がわかりやすい。
私も息子に何度か読み聞かせしながら、「ぎゅうぎゅうねばねば」と短いセリフたちにどんな気持ちを乗せたらわくわくするだろう、と考えて読むのが楽しかった。
そして、そろそろ返却期限が見えてきた最近。息子はなっとうさんの絵本を自分で開くと、どのページであっても挿絵を見ながらほぼ完ぺきに暗唱できるようになっていた。
簡単な絵本ではあるけれど、展開は11くらいある。めくる順番を変えても対応できていたから、見開きのページの絵でセリフを覚えているらしい。
きゅうきゅうべばべばきゅうきゅうべばべば(ぎゅうぎゅうねばねば…)
あったーどはんに、はいどーじょ!(あったかごはんに、はいどーぞ!)
聞き慣れた人がセリフを見ながらでないと解読できないくらい、息子はまだ舌足らずだ。でも、確実にすべてのセリフを覚えている。あらゆる世界が新鮮に映る無垢な息子の脳内に、なっとうさんたちが楽しい世界を作ってくれたらしい。
そして、絶妙に言えていないところが悩殺的に可愛かった。
読み終わり、両親が心からの拍手をするとと、へへん、と得意気な顔で膝の上から覗き込む。
この言えていない感じも、どや顔も、今だけなのだなぁ。
そう思うと、この瞬間がとても愛おしくなった。
よし、今晩はぎゅうぎゅうねばねば、と言いながら家族で納豆ご飯を食べようね。
息子はきゅうきゅうべばべば、と嬉しそうに笑った。