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エアロスミスのレコードがぐにゃりと歪んだわけ【L&M音楽談義】

「あったあったっ、これこれ」

「わーすごーい!やっぱなんか違うね」


“レニー”は“マック”が引っ張り出してきたレコードに目を輝かせた。


冷泉麗虹(れいせん れに)と松鵜九門(まつう くもん)は幼なじみだ。大人になってからもお互いの家を訪ねては、音楽談義に花を咲かせる仲が続いている。


M「エアロスミスとの出会いは4作目の『ロックス』だったんだ」
 「アルバムに『ロックス』って付けるだけあって、これにはやられたね」

L「黒の背景に5個のダイヤモンドが並ぶジャケットもシンプルで“骨太”を予感させるわね」

M「もうね、針を落とした瞬間「Back in the Saddle」のイントロから“ハードロック”の世界に吸い込まれる感じさ」


アルバムの歌詞カードとともに付属しているイラスト。
メンバー5人をはじめ関係者を網羅した写真も付属。
ライナーノーツの一部

M「渋谷陽一がライナーノーツで書いているように、エアロスミスは『ロックス』が評価されて世界的にブレイクしたんだ」
「俺も音楽誌で評判を知ってレコード屋さんに走ったものさ。だから最初に買ったのが4作目なんだよね」

L「アオキレコードでしょ!私もよく行ったなぁ~、懐かしいわ」

M「高校生のときは小遣いだけじゃせいぜいEPしか買えないからさ。学食で定食を頼まずに素うどんで我慢してたな」

L「へーそうなんだ。私はお弁当派だったから、学食の事情はよくわからないけど。レコードや漫画を買うのにお小遣いを貯めたのは覚えてるわ」

M「昼食代を浮かして貯めたお金で次に買ったのがこれ。邦題は『闇夜のヘヴィ・ロック』っていうけど、やっぱり『Toys in the Attic』がしっくりくる」


邦題『闇夜のヘヴィ・ロック』
原題『Toys in the Attic』は「屋根裏部屋のおもちゃ」を意味する。


L「え?「Walk This Way」ってこのアルバムに入ってるんだ! 有名な曲だけどここで目にするとは思わなかったよ」

M「10年ぐらい後に、Run-D.M.C.がカバーしたからね。しかもスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーがコラボしてるんだぜ」
「俺なんか、オリジナルが大好きだからさ、何やってんだエアロスミスって複雑な気持ちだよ」

L「そうなんだ。私なんかカバーでハマった口だから、オリジナルよりいっぱい聴いてるかも」

M「だよね。テレビ番組とかでも「Walk This Way」を流すときはRun-D.M.C.バージョンの方が多い気がするし。ファンとしてはオリジナルにこだわりたいよ」

↑MVの1曲目が『Walk This Way』。



L「これは?アルバムタイトルがバンド名だけど?」

M「邦題を『野獣生誕』ってつけたように、ファーストアルバムなんだ。このLPには苦い思い出があってさぁ・・・」

L「なに?気になるなぁ」


M「俺は高校のとき自転車通学だったじゃん。教科書とかは肩から掛ける布製の雑嚢(ざつのう)に入れてたけど、他はとにかく後ろの荷台にくくりつけるわけ」

L「そっかー。女子はママチャリに乗ることが多かったから買い物カゴが付いてたけど、男子はかっこつけてカゴを外してたような」

M「ママチャリじゃなくてフラッシャー自転車だけどね。んで、野球のバットでもギターでもなんとかして荷台にゴムロープでくくりつけるしかない」

L「覚えてるっ。マックも学校の廊下でフォークギター弾きながら歌ってたよね。あれって自転車にくくりつけて持って来てたんだ?想像したら涙出てきたっ」

M「ギターをソフトケースに入れてね。荷台だと安定感がないからさ、何度かやっているうちに丈夫なヒモを結んで背負った方が運びやすいことがわかったけど」
「レコードもそうだった。『野獣生誕』を見せびらかしたくて、自転車の荷台にくくりつけたんだ」

L「あの荷台にLPレコードを?ちょっと無理があるんじゃない!」

M「俺がバカだった。そのときも、高校に着いてからクラスメイトに『曲がってしまうんじゃないか』って言われて気がついた。慌ててロープをほどいたけど後の祭りさ」

L「どうなってたの?」

M「ロープの圧力で円盤が弓なりにぐにゃりと歪んでた」

L「でしょうねっ。それで、聴いてみたの?」

M「ああ、家に持ち帰ってプレイヤーにかけたら、見事に音が波打ってた。あのビブラートはショックだったね」

L「もしかしてこのレコード?そうは見えないけど」

M「必死で直したのさ。LPを床に置いて、上から平たくて硬いものを敷いて、重しを乗せて。すると一晩で奇跡的に戻ったんだよ」

L「確かに、見てもわからないわ。ぐにゃって曲がったとはとても思えない」

M「だからこのLPは特に思い入れがあるのさ。いつもと変わらない「ドリーム・オン」が流れたときはホントに嬉しかったよ」
「俺にとってファーストアルバムの「ドリーム・オン」や『Toys in the Attic』の「Walk This Way」、『ロックス』の「Back in the Saddle」は夢の中でヘビロテするほど聞き込んだ曲だから・・・」

L「映画『アルマゲドン』の歌とかもヒットしたじゃん」

M「シングルチャートで1位になった「I Don't Want to Miss a Thing」な。エアロスミスの代表曲みたいになってるけど、昔からのコアなファンは納得してないと思う」



M「先日、エアロスミスがツアー活動をやめるって発表したよね。スティーブン・タイラーが声の不調を回復できないというのが理由だった」

L「ネットニュースで見たわ。8月に入ってすぐだったよね」

M「スタジオアルバムの『ロックス』でスティーブンは「Back in the Saddle」の歌い出しからインパクトが強烈なんだ。それがライブでも変わらないか、それ以上のパフォーマンスをやってのけるからね。「ドリーム・オン」もそうさ。ツアーでそれを維持し続けるのは難しいと判断したんじゃないかな」

M「ツアーから引退するとは公表したけど、活動を休止するとは言ってないわよね」

L「そこなんだ。スティーブンが可能な範囲で、スタジオ収録を行うかもしれない。ビートルズがそうだったように、今のエアロスミスに合ったスタイルでやればいいんじゃないかな」

M「ねえ、そろそろレコード聴かせてよ」

L「だよね。アルバム通して聴かせたいけど3枚は難しいな・・・やっぱりこの曲からいってみようか!」


皆さんはレコードの代わりに動画でライブバージョンをお楽しみください。次の【L&M音楽談義】でまたお会いしましょう。


※本作は実話にもとづいた創作物語です。








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