東大生が茨城で "ぼっち野宿"した話
※本記事に登場する"教育支援活動"は弊団体UTFRの活動と一切の関係がありません。お間違えのないよう、よろしくお願いいたします。
執筆:東京大学理科二類1年 NuNo
野宿。それは自由への追求であり、挑戦である。
キャンプを野宿に含めるかという問題はいささか議論を要するが、それを除けば野宿経験のある人は少数であろう。車中泊でもない。寝袋もない。一晩、外気に身体を晒すのだ。
私は4ヶ月前の春に上京したての18歳でありながら、無計画な旅路で不覚にも野宿をする羽目になった。
夏休みのある日。その日は茨城のいわゆるトカイナカで夜に教育支援活動の予定があった。活動時間も遅いので、家を出発したのは昼頃であった。
活動場所からつくば市まではそう遠くなく、つくば市には筑波大生の高校同期がいる。このことに気づいた私は活動後、徒歩3時間でつくば市へ行き、どこかで一泊して翌日、同期と会うという予定を当日の昼頃に思い付いたのだ。活動は21:30に終了した。
「さあ、歩くか」と呑気なのも束の間、トカイナカ。コンビニはおろか、街灯も少ない。
モバイルバッテリーはない、茨城の土地勘はない、友達と待ち合わせ場所・時間は当日にならないとしようもない。ない、ない、ない。スマホのライトと街灯、時々通るトラックのヘッドライトを頼りに足元を探り、Google Mapをフル活用。スマホのバッテリーは30%を切っていた。スマホのバッテリーが切れれば友達と落ち合うことも駅に行くこともできず、東京に帰れなくなる。しかし、ライトと地図は必須。
大きな橋を渡った。水辺に限らず道路脇に広がる田んぼにはウシガエルが。田舎育ちで鳴き声を知っているものの、あたりに人の影はなく、心細いことこの上なかった。視力の大してよくない私は道端に生い茂る草木が人影に見えてとても怖かった。
そんなことをぐるぐる考えていると気分が悪くなり、えずいては胃が洪水を起こしていた。歩く度にえずく。死にゆくスマホ。
今の私からすれば中々酔狂に思われるのが、この極限状態でも写真を節々で撮影していた点である。バッテリー消費の激しいカメラを起動するなど言語道断。
24時を回った頃から諦観の念に呑まれ、近場の公園に這っていった。しかし、夏場。蚊に襲われ、休めるはずもない上にその公園は住宅街のど真ん中。通報されてローカルニュース沙汰にもなってみよ。
NuNo家、末裔までの恥であろう。
仕方がなく、別の公園を探した。縁石に腰を掛けて休んだり、嘔吐したときの対処法を調べたりしたものの、出た結論は「一刻も早く横になって休む」という至極真っ当なものであった。バッテリーの無駄遣い。
道中で一度、ホテルを見つけたが、満室だった。夏の合宿で予約がいっぱいらしい。深夜にも関わらず応対してくれてありがたいが、このために信号を渡ったためにいささか恨めしい。
ローソンを発見。歩き疲れて心身ともに弱っていた私には楽園であった。田舎のコンビニの素晴らしいところはイートインスペースがある点だ。いちごオレを片手にここで一泊するのもありだなと考えた。ただ、明日までスマホの息が残っている保証はない。今日中にできる限り目的地に近づく必要があった。
楽園に別れを告げ、地獄の旅路を歩んだ。
なんとか静かな公園を見つけることができ、インスタで生存確認を行った。宿泊場所を滑り台に確定し、PCの入った石枕に頭を乗せた。素泊まりで0円。何ともお財布に優しい宿である。横になると幾分マシになった。
深夜といえどもつくば市、都会である。田舎ほど治安も良くなかろう。今ここでスマホや財布を盗まれては詰みである。とはいえスマホの電池残量を温存しながらの状態で睡魔に耐えるのは難しく、星を眺めるのも一興であるものの、小一時間、意識を失っていたかもしれない。
未明、公園の蛇口を使い、月下で服を洗った。当然着替えなどは持ち合わせていなかった。賢者も呆れる、愚者の極みである。
長い長い夜が明けた。ミニストップで朝食を済ませ、目的地へ急いだ。
集合場所と時間を一方的に送り付け、「もし、集合時間に送ったメッセージに既読がつかなければスマホが事切れているということだから、会えないかもしれない」という今生の別れを思わせる言葉を紡ぎ、集合場所付近の地理を頭の中に叩き込みながら移動した。
街並みは学術都市なだけありとても綺麗な印象を受けた。道路は綺麗に舗装され、緑も豊か。トカイナイカとは対照的であった。
最悪、道ゆく人に聞けば良いと思っていたため、案外気楽に歩けていた。「男子一晩会わざれば刮目して見よ」とはよく言ったものだ。ん?三日?いや一晩だ。
汗に溺れ、服には吐瀉物。公園で洗い、匂いは取れていたとはいえ大して衛生的ではない。会うのは10時以降で早起き(起床から24時間経過)だった私は集合地点近くの温泉施設に向かった。
体だけでも清潔に。サウナはもちろんジェットバスに電気風呂、寝転び湯など見たことのないものが多く、新鮮だった。
撮影した写真が駐車場とは中々のセンスである。「つくば温泉 喜楽里」というところだ。是非とも行ってみてほしい。
合流には成功した。合流後、数分で私の金属板がブラックアウトしていたことを考えると危機一髪であった。その後は大学内を案内してもらい、カラオケ、ダーツをした。ダーツをしたのは初めてであったが、案外楽しく、ハマってしまった。
日が落ちた。つくば駅前のミスドを頬張り、解散。つくばエクスプレスで帰宅した。値は少々貼るも、確実に帰れる安全策を取った。帰って早く寝たいというのもある。とはいえ、往路に初めて使った駅名を覚え、東京の地下鉄を乗りこなしたことに驚きを隠せない。火事場のバカ知恵とでも言おう。
その晩は言わずもがな、よく眠れた。睡眠万歳!昼頃まで寝ていたようだ。この経験は大学生最初の夏休みにくぐった大きな修羅場の一つだったと永く心に刻まれるであろう。
野宿。それは遮蔽物に覆われた空間で寝るという社会的通念を打破する自由への追求そのものであり、物質的かつ精神的に非衛生的な環境下で生き抜くための己の注意力や思考力が試される挑戦である。
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