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短編小説集

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短編小説をまとめています。切実な感情を丁寧に拾いたいと思って書いています。
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記事一覧

短編 紙で折った天使は空に散る

短編 紙で折った天使は空に散る

 お前の身体は、紙からできているんだろう。人間のふりなんかしたって意味ないよ、僕の目はごまかせない。春が来たらどうなるか、僕にはわかってるんだ。紙製のお前はこちらを振り返った拍子に、春風にその軽い身体を巻き上げられて、腰のあたりから真っ二つに折れ曲がってしまう。そしたらどうなる? だらしなく地面についたそのゆびさきは、水たまりから雨水を吸い上げる。そしてなす術もなく、見る見るうちに鏡の向こうの世界

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短編 ままごと

短編 ままごと

 語りすぎはからだに良くないね。今朝も彼は、あたたかい畳の上で、すでに口癖になったその台詞を繰り返す。今朝とは言っても、もうかなり日が高い。障子を開け放しているので、七月のかんかん照りの太陽が、布団に寝転ぶわたしたちのだらしない格好を世界中に暴いているかのよう。この中庭に面した書斎には女中さんすら滅多に入ってこないのに、「ほらわたしたち、いま【自堕落】をやっています!羨ましいでしょう?」ってひけら

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短編 骨まで美味しくお召し上がりいただけます

短編 骨まで美味しくお召し上がりいただけます

 金魚の骨を見たことがある。しかも、それは自宅の水槽の底に沈んでいたのだった。

 当時わたしはおかっぱ頭の小学生で、金魚を四匹、飼っていた。縁日ですくってきた子たちだったので、揃いも揃って小ぶりで、一様に目の覚めるような朱色の身体を持っていた。それでもわたしはどうしても見分けをつけたかった。それで、わずかな体格差を頼りに小さい方からハル、ナツ、アキ、フユと名付けた。一旦名付けてしまうと、自分が昨

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