【ショートショート】スーパー銭湯で世界を思う
スーパー銭湯が大好きで、本当は一日に二回行きたいくらいなのだが、行けて二週間に一回だろうか。今回も三週間振りとなる。
ここのお風呂は天然温泉で、ぽっかぽかになれるので寒い季節にはもってこいのスーパー銭湯なのだ。寒い中、天然温泉の露天風呂に浸かる。こんな至福の時があるだろうか。
身体が温まると十二分くらいサウナに入る。これで500mlの汗を出す。これで今晩、美味しいビールが飲める。
サウナを出ると、さっきまで入っていた露天風呂の横の海水浴場によくあるプラスチック製のリクライニングチェアに横たわる。
そこで太陽の光を浴びていると、身体が光合成を始めているような気持ちになり、太陽と地球の大きさを感じずつ、そして自分のちっぽけさを肌で、丸裸で感じることができる。
自分如きの小さな人間。いや人間というものは一人一人はちっぽけな存在なのだ。なのにプーチンみたいな悪漢が出てきて、たかがその一人の人間の影響で何千人もの罪なき人間を殺してしまう。一人の人間なんて、こんなちっぽけな存在なのに。
今自分に出来ることはなんなのだろう? 多分それは祈ることなのだ。平和を祈る。その一人一人の思いが多く集まれば物事は動くのかもしれない。
そろそろ身体が冷えてきた。湯船に入ろう。ぬるめがいいな。そうだ炭酸風呂に入ろう。
炭酸風呂には先客が二人いた。二人は知り合いのようで、腰から下を湯船につけながら会話をしていた。
「堀江行ったね?」
「堀江って、ヨットの堀江謙一か?」
「そうそう、昨日サンフランシスコから出発しただろ?」
八十三歳という世界最高齢での太平洋横断に挑戦している海洋冒険家の堀江謙一のことを話題にしていた。
「凄いよな、俺らと同じ歳くらいだろ?」
「凄いじゃないよ」
「いや、凄いだろうよ」
「そうじゃないんだよ。今はウクライナで子供が殺されているんだよ。そんなことしてる場合じゃないだろ」
スーパー銭湯でゆっくりしているお前が言うな! と思わず突っ込みたくなる。が、自分もその一人なのである。
「そりゃあそうだけどさ、あの年齢で挑戦するのは凄いことだと思うよ」
「いや、今じゃない。今行くのはダメだ」
平和ボケの日本のスーパー銭湯で、世界を思い、世界を語る。
平和ボケの日本で。
そんな自分に何が出来るというのだ?
一体何が出来るのだ?
祈りだ?
祈るだけでいいのか?
結局何も出来ない自分がいる。
平和ボケの日本で。
その国のスーパー銭湯で。