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映画レビュー『それでも夜は明ける』~奴隷のいる日常
『それでも夜は明ける』
公開年:2014年
どんな映画
奴隷制度の残酷さや慈悲のなさを訴えた映画。
リンカーンによる奴隷解放宣言が1863年ですから、ほんの161年前までこんなにも野蛮なことが現実に起こっていたわけです。
目をそらしたくなるようなシーンの連続ですが、一度は見ていただきたい作品です。
あらすじ
1841年、NY州で家族と幸せに暮らしていた自由黒人のバイオリニストのソロモンはある日、知人に仕事を紹介され、ワシントンに出向くことになった。しかし仕事というのは表向きの理由で、知人の目的は彼を黒人奴隷として南部に売り飛ばすことだった。
自分は自由黒人なのだと訴えても聞く耳を持つ人はおらず、「プラット」という名前で奴隷になってしまったソロモンは12年間に渡り、奴隷として絶望の日々を過ごす。
感想
自由黒人とは
作中に何度も出てくるこの言葉。
気になったので調べてみると、自由黒人というのは次のような人のことだそうです。
【自由黒人】
かつて黒人奴隷制をとっていた国やその植民地において、奴隷ではなく、社会的に自由な身分にあったアフリカ人およびその子孫。奴隷主から解放された人、白人などの自由人との間に生まれた人、蓄財して自由を買い取った人など。[小学館]
私は恥ずかしながら、「自由黒人(Free man)」という言葉をこの映画を観て初めて知りました。
残酷が日常であるという恐ろしさ
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作品が始まってから50分ほどのところで、ソロモンが白人の監督たちにやっかまれ、約4分間、首を吊るされるシーンが続きます。どろどろの地面にかろうじてつま先がついているものの、力尽きてしまったら息ができなくなるような体勢での放置です。にもかかわらず、助けに来る人はおらず、むしろ眺めている人がいるほどです。黒人が暴力を受けたり、殺されたりするのは日常茶飯事なのだと思わされるシーンでした。
実は、ソロモンも自由だったころには街で黒人奴隷とすれ違っています。奴隷のほうはソロモンのことを恨めしい目で見ていましたが、ソロモンは気づいてもいません。奴隷制度は白人だけでなく黒人にとっても当たり前の日常にだったということがわかる象徴的なシーンでした。
タイトルについて
この映画の原題は“12 years a slave”。直訳すると「12年間の奴隷生活」といったところでしょうか。
クライマックスでソロモンは自由黒人だということが証明され、解放されました。でも、生まれながらに黒人奴隷で、一生その苦しみから解放されることのない人たちはどこに救いを求めたらよいのでしょう。彼らの苦しみに思いを馳せたとき、「それでも夜は明ける」というタイトルが、ひどく重く残酷な言葉に感じました。