【書評】サッカー戦術本「サッカーとは何か」の解説と所感 Vol.8
浦和レッズ分析担当コーチ・林舞輝さんのサッカーの本質を問う書籍「サッカーとは何か」
Vol.1-4では、戦術的ピリオダイゼーションの「戦術的」の部分を解説してきた
Vol.5では「ピリオダイゼーション」の部分の入り口である意味や方法を解説した
Vol.6ではそれらをサッカーに落とし込む為の考え方などにスポットをあてた
Vol.7ではそれらの考え方を踏まえて、モルフォサイクルの概念・筋肉の動かし方を解説してきた
そしてVol.8では曜日毎のトレーニングの内容を解説していく
月曜日:OFFの日 (試合後1日目)
現代では試合の次の日にリカバリー、その次の日にオフを持ってきているチームが多いように感じるが、戦術的ピリオダイゼーションでは、試合の次の日にオフを持ってくる
理由は、運動生理学的なフィジカル面での疲労回復だけでなく、「戦術的疲労」つまり頭と心の疲労もリカバリーすることを大きな指標にしているからだ
「科学的には試合の次の日にリカバリートレーニングをするべきだが、選手はやりたくないし、乗り気にはなれない。身体には良くても、心にはあまり良くない。ならば、本当にトレーニングするべきなのだろうか?」
ージョゼ・モウリーニョー
火曜日:アクティブ・リカバリー (試合後2日目)
一般的に、試合から完全に疲労が抜けるには、最低でも48時間が必要とされる
つまり、この日にはまだ疲労は完全には抜けきっていない状態だと言える
従って、トレーニングの要素は、注意深く負傷のリスクを避けることであり、主な目的は試合からの十分なアクティブ・リカバリーを行うことだ
しかし、リカバリーのことだけを考えてメニューを組むのではなく、トレーニングの法則になるべく則っていることが重要である
疲労からの回復を目的とする練習でもゲームモデルの要素を含みながら、サッカーというゲームになるべく特化した文脈のあるメニューを作らなければならない
従って、火曜日にはその週に行うトレーニングの「イントロダクション」のようなメニューにすることが求められる
もちろんゲームモデルに関連したプレー主原則や準原則を含むのだが、あくまでリカバリーなので、なるべく複雑なものは減らし、より包括的かつなるべくシンプルで簡単なものが望ましい
このリカバリーは、戦術的疲労からの回復をも意味しているからだ
「リカバリーでもトレーニングの内容は同じでなければならない、同じというのは、なるべく動的なものを排除しながらも、プレーの主原則、準原則……を入れるということだ」
ーヴィトール・フラーデー
水曜日:テンションの日 (試合後3日目)
試合から48時間以上が経ち、個人差があるため全員が全回復しているとは言えないものの、ある程度負荷の高い練習でプレー原則を落としこむことが目的となる
ゲームモデルに基づき、水曜日はそこまで複雑なシチュエーションは設けず、グループ、セクトリアル、インターセクトリアルの中での準原則や準々原則にフォーカスしていく
心理面でもより火曜日に比べると高いものが要求されるが、完全に回復していない選手もいるため、前の試合でのチームのパフォーマンスや選手ごとによって、どの程度心理的に負荷を与えるかを臨機応変に調整することが求められる
そしてこの日、フィジカル面で主に鍛えるのはストレングスである
ストレングスとは、「何かに対して耐える強さ」であり、伸張性収縮(エキセントリック収縮)が多く起きるように練習を作らなければならない
つまり、方向転換やストップ、加速減速を何度も繰り返す必要がある
プレーするスペースを小さくし、プレーヤーの数を少なくし、短い時間のゲームで休みを入れながらセット数を多くし、ゲームにおけるプレーとアクションの密度を高くするのだ
テンションの日に関して、誤解しやすいこと、気を付けなければならないことは2つある
①プレー時間
この日のトレーニングを作る上で最も重要になるのは、プレー時間と回復時間の割合のバランスである
「ストレングスを鍛える」と考えるとどうしても負荷を上げてプレー時間が長い練習をやりがちだが、それでは選手は徐々に100%の力を発揮できなくなる
そして必要とされるのは「持久力」になってしまう
この日に必要なのは、あくまでマックス100%でプレーする「テンションの高さ」であり、常に100%を発揮させるために必要なのは、「短いプレー時間と長い休み時間」である
その為この日は、練習時間が週の中で一番長くなる傾向があり、2部練習も選択肢に入れて考えても良い
②トレーニングメニューでの主要素
前述した「テンション」、「ストレングス」という2つの要素はトレーニングメニューを考える上での主要素にはなりえない
それは戦術的ピリオダイゼーションを考えるからである
戦術的ピリオダイゼーションで最も重要なのは、「ゲームモデル」「プレー原則」、そしてそれを落とし込むための「トレーニングの法則」である
「テンションありき」、「ストレングスの多い練習を作る」という発想になるのではなくて、「戦術的」な要素を含蓄した練習を「よりテンションが高くなるように」「よりストレングスのアクションを発揮する頻度が高くなるように」、スペースを小さくしたり攻守の切り替えを激しくしたり方向転換を多くしたりとアレンジする必要があるのだ
また、「ストレングス」と聞くとジムでの筋トレを思い浮かべる人も多いと思うが、ここではサッカーのストレングスであることを考えなければならない
「私は個人で行うジムでのボディービルディングや筋トレが選手の質を維持・改善させるとは思わない。〜中略〜 私の言う『ストレングス』は、200キロのレッグプレスのことではない。試合の中で大きなフィジカル・コンタクトから踏ん張って止まり、その後に素早く方向転換して次のプレーへ移る、といったものこそが『ストレングス』のアクションであり、サッカーの試合により特化したものである」
ージョゼ・モウリーニョー
ここまで月曜日・火曜日・水曜日のメニューを解説してきた
Vol.9では残りの木曜日・金曜日・土曜日を解説していく