ワードウルフ幸福論
ほんの少しだけ、話が噛み合わない。
多分、ほんの少し。
気付いている。自分が違う「お題」だということ。
ワードウルフは人狼とは少し違い、最初に自分が「市民」か「ウルフ」かを知らされていない状態でゲームが始まる。そして、会話の中で自分の立場を考察しなければならない。
市民の勝利条件はウルフを処刑すること。
だから、ウルフである者が生き残るには、誰よりも早く自分の立場を悟る必要がある。
その点では、僕は幸運だった。
僕は、自分が「ウルフ」であることに、いち早く気付くことが出来た。僕は、みんなに話を合わせた。決してバレないように、慎重に、会話した。態度を作って、思考を作って、あたかも同じなように。
お題が書かれた紙は、丸めて鞄の奥に突っ込んだ。このまま物に埋もれて、忘れてしまえばいい。
最初は、紙に書かれたお題を書き換えてしまおうと思った。でも、いくら消しゴムで擦ったところで、消えなかった。どれほど強く擦っても、紙がクシャクシャになるだけだった。涙で紙を濡らしても、文字が滲むことすら無かった。
健全とは、違わないことだ。
共通意識こそが、尺度だ。
健全でないもの、共通意識の外のもの、それらは、何の価値も無い。
僕は、普通でいたい。
「違い」を前提にして、間違いを正当化するくらいなら、最初から違っていないフリがしたい。
投票の時間がくる。
-----市民の勝利条件はウルフを処刑すること。
嫌、頼む、誰にも、バレているな、頼む、誰も、指を向けてくれるな、頼む、頼む、たのむ。
ここでは、ウルフは市民を殺せない。
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