スゴい!行動経済学 1
行動経済学とは、心理学×お金という分野です。
行動経済学の魅力は、
・人間の性質を知ることでセルフコントロールができるようになる
・他人の意味不明だった言動がいくらか理解できるようになる
・プライベートからビジネスまで役立てる場面がある
ご存じでしょうか?従来の経済学のモデルとなっている人間をホモ・エコノミクスといいます。定義は「自己利益を最大化すべく、完全に合理的に意思決定し行動する人」です。
さて、そんな人間を見たことがあるでしょうか?
感情に振り回されたり、他人のために犠牲を払ったり、分かっていてもなかなかできなかったり、不合理な行動をするのが人間です。
この不合理な人間をモデルとした行動経済学こそが本物の経済学と言えるのかもしれません。
私筆者は経済学部出身なので、「じゃああれなんだったんだよ」と思ってしまうので、用語集のように本書をまとめていきます。
多くの用語を紹介しますので心理学の読み物くらいのつもりで読んでいただければ幸いです。
ナッジ(nudge)
強制も命令もすることなく、暗に良い行動を示す
予想できる形で人の行動を修正する手法です。
例えば、Googleでは完全無料で食べ放題の社員食堂があるそうです。
「社員の寿命を2年延ばす」と宣言して実行したナッジは以下です。
・冷蔵庫内の無料飲料の配置を甘いソーダを奥に、水を手前に置いた
・デザートやチョコを不透明で見えにくい容器に、サラダを取りやすい手前
に置いた
・取り皿置き場に「大きな皿を選ぶ人ほど食べ過ぎる傾向があります」と表示した、など。
つまり、推奨する行動をやりやすく、非推奨の行動をやりにくい環境を作れば良い行動へ誘導できるということですね。
あくまで本人は自由意志で選択しているということがポイントです。
選択アーキテクチャ
ナッジの具体的な仕組みのことで以下4種に分かれます。
① 選択肢の構造化:選択肢を分かりやすくすることで行動を促す
決定疲れ(決定麻痺)といい、人は選択肢が多すぎると選択を辞めてしまうのです。
これを避けるためのマーク・ザッカーバークやスティーブ・ジョブスの服選びに頭を使わないために、同じ服を大量に持っているエピソードが分かりやすい例です。
② デフォルト:望ましい選択を初期設定にしておく
オーストリアとデンマークは隣り合うほど近所の国ですが、「脳死した場合臓器提供をする」に同意している人の割合が98%と4%という圧倒的な差があります。
この理由がもちろん、どちらが初期設定かです。
となれば、スマホやECサイト、SNSの初期設定、保険契約のモデルケースなどは、相手にとって都合の良いデフォルトになっているのが当たり前と知りましょう。
これを初期値効果とも呼びます。
③ フィードバック:行動に応じた反応を返す仕組み
分かりやすい例はゲームのレベル上げでしょうか。
頑張って戦い続け、レベルが上がったときはどのくらい強くなったか数字でフィードバックされるため、ご褒美の達成感が生まれ、またレベル上げの反復作業を続けられます。
④ インセンティブ:特定の行動をすると得する仕組みを作り、動機付けする
営業職の収入が上がるからたくさん訪問するというのが一番分かりやすいかと思います。スポーツジムで消費カロリーが表示される仕組みも同じ発想に基づいているそうです。
ちなみに、公正で利他的な行動を社会的選好といい、街のゴミ拾いなど社会的利益のある行動はナッジによって導きやすいそうです。
プロスペクト理論
・人は損をするのが大嫌い
損失回避という言葉でも知られていますが、人は一万円を失う痛みは一万円を得る喜びの2倍に感じるように出来ています。
これをナッジに活用するなら、同じ行動を促すにも、「Aしてくれれば、Bをあげます」と言うよりも、「Aをしなかったら、Bをあげられません」と告げるほうが行動を誘発しやすいということです。
ナッジとは北風と太陽みたいなお話ですね。
ソーシャルゲームにハマる理由
大筋は①ゲームの魅力により続ける➡②ゲームから得たものにより更に続ける➡③今更辞められない、です。
① ゲームの魅力
フランスの社会学者ロジェ・カイヨワによれば、ソーシャルゲームの魅力は以下の四要素の組み合わせだそうです。
・他人との競争(競争)
・ハプニングと期待(偶然)
・なりきる楽しさ(模倣)
・非日常感(幻惑)
これらがプレイしたフィードバックとして提供されることとなります。
② ゲームをプレイして生まれるもの
ゲームが進めば、キャラクターの成長、入手アイテム、テクニックなど色んなものが手に入ると思います。
これがハマる理由その1,保有効果(人は一度でも保有したものは手放したくないと感じる)
ここに損失回避が一緒に働くわけですからなかなかやめられません。
さらに、ハマる理由2,IKEA効果(自ら労力を払ったものの価値を高く見積もる)も働くので、ゲーム自体の評価も高くなりやすく、愛着が生まれます。
そしてハマる理由3,何度もプレイするわけですからザイアンス効果(=単純接触効果)も生まれ、好感度が自然と上がります。やっているうちにどんどん好きになってしまうのです。
このザイアンス効果は、無意味な図形や文字列にすら働くので避けようがないものです。
③ そして辞められなくなる
そして4つ目の理由として、費やした時間がもったいないから辞められない(サンクコスト・バイアス)となるのです。
サンクコスト(埋没費用)とは回収不可能となった費用のことです。
この場合は、費やした時間やお金です。
最後に5つ目の理由は、機会費用の軽視です。これは、人は選ばれなかった選択肢を軽視する法則があるということです。
もし、ハマり込んだゲームをやっていなかったらその時間とお金で何ができたかなんて、なかなかまともに考えられないのです。
おまけとして、人の脳は変化を嫌います(現状維持バイアス)
だから気づけばいつも通りの行動をして、無意識に安心してしまいます。
現状維持バイアスはブラック企業を離れられない心理の説明にもよく使われますし、サブスクの狙いもこれなので是非知っておきたい所です。
特に、初月無料には気を付けましょう。
うまくできているものだなと思いますが、様々な心理バイアスへの対処法は知ることです。もし、身近にハマりすぎで悩んでいる人がいれば説明してあげてください。
サブスクリプションには注意
サブスクは通常の買い物と違い、支払いが自動化されていることに注意が必要です。
メンタル・アカウンティング(心理会計)といい、お金を払うとき、金額に応じた痛みを心に感じています。
サブスクとはお金を払っている意識無しに支払いをしてもらう方法でもあるのです。クレジットカードでも近い結果が見られています。
もちろん、サブスクもクレジットカードもメリットはあるので悪というわけではありません。
他にもハウスマネー効果といい、労働して得たお金は大事にし、ギャンブルで得たお金は軽視する傾向も発見されています。
もちろん、本当はお金に色などついていないので一度冷静に自分の支払いを省みるのも良いかもしれません。
そして、本当は何でも選択肢は少ないほうが良いのです。
買い物なら、ネットでいくらでも情報が手に入る今の時代はキリがなく、大半の人が多くの情報を集めます。
そして決定疲れを起こし、結局「えいやっ!」と雑に選択し、後になって本当に良い買い物だったのかと満足せずに終わるそうです。
ヒューリスティック
経験や先入観によって直感的に、ある程度正解に近い答えを得ることができる思考法のことで、いくつか種類があります。
利用可能性ヒューリスティック
これは思い出しやすい記憶を優先的に評価したり、印象的な事象を高確率だと評価してしまうというものです。
一言で言えば、そういう思い込みです。
例えば、飛行機事故が起こりニュースになれば、飛行機の利用率が下がり新幹線の利用率が上がります。
2019年時点で、日本にコンビニの数は5万7,000、美容院の数は24万ほどあります。しかし、自分の利用率を理由にコンビニのほうが多く感じてしまいます。
もし、あなたの職場にパフォーマンスが低いのに自分は仕事が出来ると勘違いしている人がいたら、これかもしれませんね。
代表性ヒューリスティック
これは「一般的な事柄」よりも、「低確率なはずの特殊な事柄」のほうが高確率だと誤判断してしまうものです。
具体例にはよく企業の学歴フィルターが用いられるようです。
確かに学生全体のうち、高学歴のほうが少ないです。
高学歴=その企業でのパフォーマンスが高いは論理的ではないです。
続けてくれるかどうかの問題だってあるので、良い採用という意味では学歴フィルターはひたすら低確率を選び続けているように見えます。
深層心理
集中力を高める方法
とある英国の心理実験によれば、人の集中力は30分が限界だそうです。高い集中力を要する場合は15分が限界だという説もあります。
この集中力を高める効果が期待できる法則をいくつか紹介します。
・締め切り効果
人は期限が設定されると、それに間に合うように頑張るものです。時間に余裕がない状態が集中力を向上させるので、自分でそう設定すれば良いのです。これを集中ボーナスともいいます。
また、人は時間経過とともに増えていくものを好みます(上昇選好)
目標を立てるときは、成功率よりも成功数で設定したほうが損失回避が働かず、集中に結び付きやすいです。
モチベーション
動機付けは外発的モチベーション(報酬や罰)と内発的モチベーション(内なる目標)に分かれます。
この二つは干渉しあって人の行動を後押ししています。
例えば、仕事内容が好きで報酬も高い中で働いていた人が、いつの間にか報酬のことしか考えなくなり、パフォーマンスがどんどん落ちるといったことが確認されています。
このような外発的モチベーションが内発的モチベーションを駆逐してしまうことをクラウディングアウトといいます。
何を伝えたいお話かというと、罰やご褒美(外発)を設定して自分や他人を頑張らせようとするより、本人の興味や好奇心(内発)に任せたほうが良い結果が得られる場合も多くあります。
2種類のアプローチを持つのが良いのかもしれません。
マリッジブルーの仕組み
結婚が決まった瞬間は嬉しかったはずなのに時間が経つにつれ、憂鬱になるのは不思議なことです。しかし男女共に約半数がこれを経験するそうです。
これは解釈レベル理論(時間の経過につれ、判断や評価が変わっていく心理)と呼ばれています。
人々は遠い未来に対しては、抽象的・本質的・特徴的な点に注目し、近い未来に対しては、具体的・表面的・瑣末的な点に注目します。
結婚の場合は漠然とした幸せを思い描き、時間的に近くなるに連れ、式場・招待・資金・段取りなど具体的なものが見え始めます。
するとストレスになり、ブルーになるのだそうです。
少しややこしい話ですが、時間経過と感情に振り回されるより、知っていればコントロールできるというのがポイントです。
マリッジブルーの例であれば、結婚が決まったら早めに段取りも考え始めれば(時間的距離が遠いうちから時間的距離が近い場合をイメージ)、ブルーになるはずだった期間に余裕が生まれ、幸せな計画に変わるかもしれませんね。
この解釈レベル理論をビジネスに応用したのがゴールデンサークルと呼ばれ、プレゼンもPRも「why➡how➡what」で語ると良く響くそうです。
製品のアピールでいうと「こういう信念で我々は活動していて➡こういう方法で実現するつもりで➡こういう製品ができた」となります。
用語が増えてきたので後編に続きます。
なお、別記事はこちらからご覧ください:もくじ