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スゴい!行動経済学 2


前編はこちらから:スゴい!行動経済学 1

お金とは仲良く

後編はお金の話から始まり、エピソード中心に見ていきます。

夢のマイホームというマインドコントロール

住宅ローンは住宅の購入時に金融機関から融資を受けることです。
返済期間は最大35年となっています。

住宅ローンは明治時代に生まれ、資産家ではないサラリーマンでも住宅を持てるようになりました。
そして時は流れ戦後、政府主導の持ち家重視政策が打ち出されます。
そこからはメディアはこぞって持ち家は素晴らしい、目指すのが当たり前といった宣伝を続けたようです。

戦後といえばバブル期ですが、その崩壊まではローンを組んでまで持ち家を購入することに確かにメリットがあったのです。
なにせ著しく経済成長しているわけですから、「土地神話」という言葉も生まれ、買った地価も大体は上がっていきます。

私筆者もここまでは間違っていないと思いますし、ロ-ンによって早くから持ち家を所有できたメリットも否定する気はありませんが、この先が問題になります。

ここに目を付けた政府が「ゆとりローン」というものを実施します。
最初の5年が最も返済額が少なく、次の5年で少し返済額が増え、11年目から一気に返済額が増えるという仕組みです。

国策であること、目先の返済が楽なことを理由に多くの人が飛びつきました。そして多くの人の返済額が増える時期にバブルが崩壊したものですから、自己破産が急増し、「ゆとりローン」は姿を消しました。


このお話を行動経済学の視点で

まず解釈レベル理論が働き、返済額が増える遠い未来をぼんやりと見積もったことが消費者の一つ目の失敗です。平たく言うなら目先のお金や願望実現に目がくらんだと言えるかもしれません。

2つ目に、時間割引(=時間選好、双曲割引)が働いたと思われます。
これは、人はすぐもらえる報酬を高く評価し、後でもらえる報酬を低く評価するというものです。
「今すぐもらえる1万円と一年後にもらえる1万1,000円」なら大半が「今すぐ1万円」を選んだという実験があります。
時間が経過するほど、価値を割り引いて評価するわけです。

どのくらい価値を割り引いてしまうかを時間割引率といい、せっかちな人ほど時間割引率が高いそうです。

さらに言えば「国が言ってるから正しい」「金融機関が勧めるから悪いものなはずがない」といった権威バイアス(偉い人が言っていることだから正しいという思い込み)も働いたのではないかと思われます。
日本では「借金=悪」という風潮があり、ギャンブルはしょうもない無駄遣いだと思われています。
にも拘らず、住宅ローンという借金は良いことのように扱われ、宝くじという最も勝率の低いギャンブルが「夢を買う」なんて表現されていることを、一度合理的に考えてみても良いかと思います。

世の中はポジショントークに溢れています。


保険は本当に役立つ?

保険は生命保険と損害保険の2つに分かれます。損害保険のほうが歴史が長く、起源は古代オリエントまで遡ります。
「資金を借りて旅に出た商人が盗賊や災害に襲われた場合は、資金の貸し手が損害を負い、無事なら承認が利子をつけて返す」というルールが基だそうです。

これが時代に合わせて派生し、大航海時代に海上保険が生まれ、その後のロンドン大火をきっかけに火災保険が生まれました。
その後、福沢諭吉の紹介により1867年に日本に入ってきます。そして戦後のセールスレディの活躍により今日ほどの知名度と加入率が築かれたという経緯があります。

さて、生命保険って入ったり出たりしないと思います。
生命保険文化センターによると、日本人の保険加入率は80%ほど、世帯当たり年間保険料は38万円です。これを30年間支払い続けると1,000万円を越えます。
これだけの金額なら貯金していたほうが賢明な場合も多いものです。
ちなみに保険の考え方については是非こちらの記事をご参照ください。

保険に入りたくなる理由は損害保険のほうが分かりやすいので、プロスペクト理論を交えて詳しく見ていきます。


プロスペクト理論

・損失の悲しみは獲得の喜びの2倍
・参照点からの絶対値によって損得の感情を感じる

上記のグラフは価値関数といいます

感応度逓減性といい、損得が大きくなっていくと感情の変動幅が小さくなっていきます。「100万円手に入れた」も「101万円手に入れた」もあまり違いを感じないイメージです。

例えばAさんもBさんも100万円持っていたとして、
・Aさん:一昨日50万円➡昨日120万円➡今日100万円
・Bさん:一昨日50万円➡昨日 75 万円➡今日100万円
と変化した場合、Aさんはがっかりしていて、Bさんは喜んでいるでしょう。

この「昨日の状態」が上記グラフ中の参照点になります。
そして、一昨日から考えると二人は同じ状態なのに感情が全く違うほど参照点に引っ張られてしまう性質を参照点依存症と呼びます。

また、参照点を基準に判断してしまうことをアンカリングと呼びます。
人間は直前の情報に強く引っ張られてしまうのです。

これを元に、パソコンの保障に3,000円払うかどうかを想像してください。
A:10万円のパソコン購入時に保障に入るかどうか
B:今持っているパソコンに保障をつけてもらうかどうか

Aの場合は10万円➡10万3,000円なので変化率が小さく、感応度逓減性によって「入ってもいいか」と思いやすいのです。
Bの場合は0円➡3,000円なので変化率が大きく、損失回避も働き、入りたがらないのです。

実は暑い・寒いの感じ方も気温自体ではなく、気温の変化率で決まります。アンカリングは人間である以上避けられない法則なのです。


確率加重関数

これもプロスペクト理論の重要な原則のひとつです。
保険に入ろうかというときは、悪いことが起こる可能性があるから加入するはずです。しかし、人が感じる確率と現実の確率はいつもズレています

確率加重関数

面白いもので、まず起こらないことは本来より高確率で起こるように感じてしまい(0%付近)、ほぼ起こるであろうことは逆に過小評価(100%付近)してしまいます。
この傾向を確実性効果とよびます。

損害保険のお話に戻ると、保険が確実に保証される内容なら損する確率は0%です。確実性効果により強烈な魅力に感じます。
その保険に入りたくないときは、保険事故が起こる確率は限りなく低くても0ではないからには事故が起こりそうな気がしてしまいます。


選んでいるようで買わされているのかも?

実際のアンケート実験を1つ紹介します。
週刊経済紙エコノミストを購読するかどうか
A オンライン版:年間59ドル
B 印刷版:年間125ドル
C オンラインと印刷版:年間125ドル

結果は、A:14% B:0% C:86% となりました。とても自然な結果に見えるのですが、今度は「AとC」の2択で質問します。
すると、A:68% B:32%となり、結果は逆転したのです。

注目すべきはまず、アンカリングです。最初の質問ではBの選択肢がアンカーとなり、いつの間にかBとCの比較で考えてしまった結果、より優れたCが選ばれたと考えられます。
Cを選ばせたい時には、Bのような一見無駄な選択肢が輝くのです。
このような全てが劣った選択肢を用意することでCを輝かせた効果を魅力効果といいます。

また、値段の松竹梅を思い浮かべてください。これは真ん中の竹が最も選ばれやすいのです、値段や品質が極端であれば余計に。
極端性回避(=妥協効果)といって、人は極端な選択肢には抵抗を感じ、中庸な選択肢には魅力を感じます。

店頭のラインナップや価格にはこれらが利用されていることもあります。
誘われて意味不明な買い物をしないために、知ることから始めていきましょう。

より良い世界のために

確定拠出年金をご存じでしょうか?これはアメリカで生まれ、後に日本にも輸入されたものです。税金面で優遇されながら給料の一部を積立投資していく制度です。これも行動経済学を活用して進化し、人々の積立行動に貢献しています。

お得で有用な制度だったのですが、誕生当初は加入率がとても低かったようです。理由は加入手続きが面倒だという先延ばしと思われます。
加入時に拠出割合や投資先を自分で決めなければなりませんでしたから。

これがナッジに基づいて「何もしなければ規定値通りに自動加入」に変更し、さらに賃上げがあれば、自動的に拠出割合も変更されていく仕組みに改善されます。
そして、あくまで行動経済学なのでいつでも解約も変更もできます。

結果、90%の以上の加入率が維持され、拠出割合も年々増加し、多くの人が給料の10%ほどを毎月将来のために積み立てるようになりました。

加入者の心理

まず、自動加入がうまくいくのはフレーミングによるものです。これは例え内容が同じであっても見せ方(フレーム)によって印象が変わるという心理作用です。
本人はフレームを意識していなくても意思決定が変わってしまうのです。
そしてもちろん、デフォルト(初期値効果)が活躍しています。

さらに賃上げ分を拠出率に反映する仕組み(スマートプログラム)は
解釈レベル理論が活用されています。時間割引によって昇給分のお金はすぐ使いたい感情を自動化することで回避しています。
人には「未来の利益より今目先の利益」を優先してしまう性質があり、現在志向バイアス(現在バイアス)と呼ばれます。

そして、一度加入してしまえば変化を嫌うという現状維持バイアスが働き、積立の継続に成功しています。

ちなみに日本人は貯金大好きとして知られていますが、これは明治時代に国主導で作られた習慣です。戦争の費用を捻出するために強制貯金制度が実施されます。源泉徴収制度もこの時生まれました。
戦後も復興のために国民のお金をアテにして「貯蓄は美徳」を広く宣伝し、こども銀行なども導入されました。

周りに流され、バイアスに振り回される人たち

貯蓄はもちろん必要なものですが、現代でも日本人は銀行預金のみの人が多いというのは現状維持バイアスが働いていそうです。
さらに「上の世代や周りがそうしているから自分もそうする」という同調効果(無意識に周りに合わせてしまう)も働いているのでしょう。

さらに、ハーディング効果といい、人は集団に属していると安心し、集団を離れると不安を感じます
以下をご覧ください。

Aと同じ長さのものはどれですか?

一目瞭然だと思われたでしょう。しかし、サクラを潜り込ませ、一番に間違えてもらうと75%の被験者が同調して間違えたという実験があります。

これらの「周りに合わせてしまう・集団に属そうとしてしまう」といった心理の強力さは2020年以降の日本社会を見れば顕著だと思います。マスクをするしない、ワクチンを打つ打たないで分断が起こりましたね。

自分が属する集団を内集団、それ以外を外集団と呼びます。そして、内集団バイアスといい、人は無意識に内集団を高く評価してしまいます。

そして確証バイアス(自分の意見に都合のいい証拠だけを見てしまう)によってさらに歪みます。
ワクチンを打った人はワクチンの利点の話にばかり注目しがちになり、打たなかった人はワクチンの薬害がより目立って見えたでしょう。

いかがでしょう?いつの間にか「コ〇ナって危険かな?自分自身はどうすべきだろう?」という本質から遠い所まで来てる人も多くいたと思いませんか?
私筆者は、価値観や選択は人の数だけあるなんて言葉にすれば当たり前に見えることが、とてつもなく難しいことなのだと痛感しました。

企業が追及しているものは?

さて、最後に大企業に気を付けようというお話です。私筆者も「あんな有名企業が〇〇なことをするわけがない」のような言葉は腐るほど聞いたことがあります。
が、サブリミナル効果を禁止する法律ができるまでに多くの広告に使われたことが分かっています。Googleやappleやtiktokは堂々と利用規約に個人情報を収集・活用しますと規約に書いています。
大手食品も安全性の疑われる添加物をふんだんに使った食品を提供しています。税金を払っていない大企業も昨今では多数明るみに出ています。

なぜ企業がモラルを失うのかという原因は、行動経済学でいくつか言われているものがあります。
ひとつは、社会心理学者アーヴィング・ジャニスによれば、グループシンク(集団思考、集団浅慮)があります。人は集団になって話し合うとバカになり不合理な意思決定をするということです。
これは一人の人間の内側ですら色んな側面があるのに、複数人集まってしまうとぐちゃぐちゃになるのは当たり前なのかもしれません。

二つ目に割れ窓理論です。犯罪心理学からですが、きれいな建物には倫理観が働いて汚しづらいですが、一つでも窓が割れていたらやがて全て割られてしますというものです。
ひとつモラルのないことをやってしまえば瓦解していきやすいものだそうです。

当然ですが、モラルは重んじたほうが良いです。
信頼は築かれるのに時間がかかることが分かっていますし、人には自分が損してでも悪を罰したいという心理がありますから、利益のためにモラルを軽視するのは目先しか見えていないと言わざるをえません。


以上となります。知っていることによって落ち着いて合理的になれることがあるかもしれません。自分の生活にちょっとした仕組み(ナッジ)を作ることで目標を達する助けになることもある思います。
用語やエピソードを通じて行動経済学の面白さに触れていただけていれば、とても幸いです。ありがとうございました。

刊行:2020年1月      他の記事はこちらから:もくじ

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うしさん
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