あなたの葛藤を可視化する ーフリーダ・カーロの自画像を真似て描く
新しい作品・商品・サービスのアイデアや、自分自身の生き方を考えるうえでのアイデアが湧いてくる状態とは、どのように作り出せるでしょうか?
「アーティストトレース」という学びのコミュニティでは、毎月テーマとなるアーティストをめぐって、鑑賞・リサーチ・創作を通じて、アートから仕事/生活へのインスピレーションを生み出すことを目指しています。
今日はアーティストが描いた自画像を模倣して、自画像を作ってみるワークを行うことで、ふつふつとインスピレーションが湧いてくる状態をつくることができたので、その方法を紹介します。
アーティストを「トレース(模倣する/写す)」ことで触発を生み出す
インスピレーションとは日本語で「触発」と翻訳されます。何か新しいアイデアが湧いてくる状態、あるいは新しい別の自分に変わっていく予兆が感じられる状態のことを示します。
そんな触発を生み出すアーティストトレースのワークショップは、こんなふうに行われます👇
まず、アート作品を参加者同士で対話しながら鑑賞します。次に、その思想や市場をマーケティングの視点を借りてリサーチしていきます。また、鑑賞した作品を自分に置き換えて真似して創作します。最後に、「もしアーティストがあなたならどのように仕事や生活の中で表現を展開するか」を妄想し、思い浮かんだことを共有します。
アーティストの作品や人生に憑依する、あるいは自分にアーティストを憑依させるようにして思考することで、今までなかったアイデアや思考の感覚を作り出していくことを目指しています。
フリーダ・カーロの人生と作品の評価
3/20(土)のテーマは、メキシコを代表する美術家、フリーダ・カーロ(1907~1953)です。太く、眉間で繋がりそうな眉で、こちらを見つめる眼差しが印象に残る自画像が有名な作家です。
フリーダの絵には単なる自画像ではなく、内臓や骨、あるいは果物や植物、動物、もしくはメキシコの文化・文明の遺産などからインスパイアされたモチーフなどが散りばめられています。
フリーダの作品たちは、パートナーでありメキシコの偉大な画家であるディエゴ・リベラとの関わりや、女性自身が描く自画像という点でフェミニズム視点で読み解かれることもあります。恋愛における悲喜交交の経験のほかに、身体の障害があり自由に歩けないことや、メキシコとアメリカを往来することなど、性、障害、文化といったさまざまな葛藤から、自身と深く向き合う中で作品が生まれています。
また、フリーダ自身の深い関心から、フリーダの作品をメキシコの土着的な文化の表象であるとし、民族芸術に位置付けられることもあります。ファンタジックなイメージと事実が混在されることからシュルレアリスムの作家という見方もあります。ブルトン、ピカソ、デュシャン、イサムノグチ、ジョージア・オキーフといったさまざまな作家やコレクターからの評価もあり、生きている間に作品が評価され、収集されていました。
アーティストによって異なる学び
作品によって感じることが異なるように、アーティストトレースでは、テーマとなるアーティストによって起こる学びが違っています。
前回テーマにした岡本太郎の場合は、民俗学的な調査活動を通じてインスピレーションを生み出していったプロセスを見て、いかにして自分の外側を探索し、自分の内なる情熱と結びつけていくのかという問いが浮かんできました。
一方、フリーダ・カーロは、身体の傷や痛みをファンタジーと事実が混在しつつメキシコの土着的な文化とともに描き出した自画像を描きます。その作品群は、フリーダの内面を推察させるとともに、鏡を見るように自分の感覚を内省させられます。
フリーダ・カーロに着目した理由は複数あります。フェミニズム、多文化といった視点で考えることもできれば、具体的経験に基づく内省的な作風は、現代のコロナ禍の内省性とも通底するのではないか?という視点がありました。
今回のワークショップでも、参加者一人一人の内省がうながされ、「私の経験と価値観」をめぐる話が展開されており、岡本太郎とは異なる学びが起きていたといえます。
ワークショップの中でも、そのなかで、フリーダカーロの自画像を鑑賞し、トレースするという活動が非常に面白かったので、その点をご紹介したいと思います。
フリーダカーロの自画像をトレースする
このワークは、至ってシンプルです。
①フリーダ・カーロの絵画作品「メキシコとアメリカ合衆国の国境上の自画像」をめぐって、対話型鑑賞をする
・この作品のなかで何が起きている?
・この作品から何を感じ、考えた?
・それは、どこからそう思った?
この3つの問いをめぐって参加者の言葉を紡いでいきます。
②「メキシコとアメリカ合衆国の国境上の自画像」と似せた構図で、「あなたの自画像」を描く
指示は以下の通りです。
・真ん中にあなたを描いてみてください
・あなたにとってのメキシコ、アメリカはどんな場所?(それを画面の左右に描いてみてください)
・あなたを葛藤させる2つのものは、どんなふうに繋がっている?(それを自画像のしたに描いてみてください)
③描いた絵をめぐって対話をする
・描いた人から紹介をしてもらう
・鑑賞した人が気づいたこと考えたことをコメントする
この3つの流れです。ここに参加者の方の作品を添付しておきます。
これはぼくが描いてみたものです。オンラインで仕事をする自分と、子育てをしながら身体感覚に根ざした体験を大切にしたい自分との葛藤を描いてみようとしました。また、傍にいつも子どもがいることが身体感覚に根ざした喜びと過酷さをないまぜにしたものを描こうとしました。
こちらは、ニット作家として活動されている参加者の方のスケッチです。出身地の雄大な自然を左側に、好きな編み方を右に配置してみることで、ニットという現在のライフワークと、自身のルーツとの間につながりがあることを描いてみて感じられたそうです。
こちらは、スープ作家として活躍されている有賀薫さんのドローイングです。私の左側にはプリミティブな食・調理の風景が描かれ、右側には近現代の食の機械化・専門職化が描かれています。とくにレストランが男性社会のものであることが感じ取られる右上の描き方が印象的です。
共同主宰の黒澤友貴さんはこんなふうに図解して描き出されていました。アナログ・身体とデジタルにひきさかれながら、自分が大切にしているコミュニティは対面でのコミュニケーションにもオンラインコミュニケーションにも支えられている。この絵を描かれる中で黒澤さんは右側の環境に依存している自分に気づいたそうです。
この自画像のワークで面白かったことは、自分というものをその身体だけでなく、自分をとりまく環境をふくめて感じ直すことができたことでした。
「あなたにとっての(フリーダ・カーロにおける)のメキシコとアメリカ」「あなたを葛藤させる2つをつなぐもの」を描き出していくことで、自分というものの構成要素を内省し、表象することで新たに構築することができました。
このワークを行なったのち、フリーダ・カーロのキャリアを参加者で協力してリサーチしていきます。
こんなふうにアーティストをとりまく文脈を考察しながらも、アーティストの作品にのめり込むように鑑賞し、アーティストの作品をかりて自分の思考を表現してみるといった感性的なワークも行います。感性的・論理的な思考を往復しながら、アーティストからのインスピレーションを沸き立たせるのが、アーティストトレースです。
次回、アーティストトレースは…?
次回は、4月17日(土)17:00~12:30
現代美術界の巨人マルセル・デュシャンを取り扱います。
https://duchamptrace.peatix.com/
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このマガジンは、アートエデュケーターの臼井隆志が、様々なアートワークショップを思索・試作していくマガジンです。ご購読いただいた方には、日々のリサーチ日誌を週次で公開すると共に、対話型鑑賞などの実験的なワークショップおよび月に1回開催される「アーティストトレース」のイベントにご招待させていただきます。
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