
書評:『社会的認知の発達科学』
素人でも最新の研究に触れ、活用することができます。この本は「赤ちゃんが人の心をどうやって解釈するのか」を中心とした発達科学の専門書で、最新の研究がまとめられたものです。「旅行ガイド」のようにくりかえし開いて確かめて楽しむ本だと思いました。
赤ちゃんの「心」をめぐる本
この本のテーマである「社会的認知」とは「他者の行動や心的状態を予測し、観察し、解釈する能力」です。実はこれは、生後すぐから観察される認知能力なんです。
本で書かれている内容はこんな感じです。↓
・赤ちゃんは人の顔をどう知覚するの?
・赤ちゃんはどうやって人からの視線を認知しているの?
・生まれたばかりの赤ちゃんは生き物とそうじゃないものを区別するの?
・どうやって他者の「感情」を認知している?
・赤ちゃんの利他的な行動はなぜ、いつからはじまる?
・善悪判断や道徳感情はいつから芽生える?
・赤ちゃんは親とどうやって相互作用しているの?
このような内容をめぐって、最新の研究が網羅的に紹介されています。
面白いのは、脳科学の内容がしっかりと盛り込まれていることです。ぼくは「社会」や「発達」という文字から、人間の行動を観察して考察する「文系」な研究なのかなぁ?と思っていました。しかし、この本には「実験によって脳のどの部位がどんなふうに活性化したのか」といった内容が多く、納得感をもって面白く読むことができます。
「心の理論」や「共感」、「ミラーニューロン」といった言葉がなんとなく気になっていて調べたいと感じていた方なら、持っておいて損のない一冊だと思います。
ガイドブックとしての専門書
この本では、心理学はもちろん、理学、教育学、人間科学などさまざまな背景を持つ22人の執筆陣が、テーマごとに近年の研究動向をまとめています。紹介されている論文を検索し、実際にどのような実験が行われたのかを調べながら読むことで理解が深まる「ガイドブック」の役割を果たす本だと思いました。
たとえば、『地球の歩き方』という本を買ったとします。読むだけでも旅行気分が味わえますが、気になった場所を実際に訪れたり、紹介されている外国語の日常会話を使ってみたりすることでより一層楽しめる本です。
この『社会的認知の発達科学』も同様に、ただ読むだけでなく、観光旅行で現地を訪れるように紹介されている論文を読んだり、日常会話のように紹介されている知見を赤ちゃんや子どもに対して使ってみたりすることで、より一層「社会的認知」の世界を楽しめるようになるのだと思います。
最新の研究に参加しちゃうつもりで
おそらくこの本は、発達科学を専門的に勉強したいと思っている学生あるいは研究者の方向けに書かれた本です。しかし、この記事の読者の方でそういった専門の方は多くはないと思います。
面白すぎてマーカーひきまくりです。
ぼくも、認知・発達について独学で調べているアマチュアです。しかし、この本のテーマに共感し、関心を寄せ、仕事や生活にいかすために、新しい知にアクセスしたいと考えています。
こうした本を読み、先行研究を参照しながら仕事や生活のなかで発見したことやひらめいたことを整理していくことで、研究者が探求し論文を介して共有している知のネットワークに参加することができます。
ぼくはアカデミアの人間ではありませんが、こうした知のネットワークに参加し、活用し、ほかの人も一緒に使えるように翻訳をしていきたいという気持ちを新たにしました。
もしこの本のような内容に興味があるけど、どうやって勉強したらいいかわからないという方がいらっしゃったら、ぜひ一緒に勉強しましょう。読書会とか開催できたら嬉しいなぁ。
いいなと思ったら応援しよう!
