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熱湯!コシーエン ~押すなよ、ゼッタイ押すなよ~

【登場する名称はすべて架空のものであり、実在する人物・団体・地名とは一切関係ありません】


クルクル☆カッピー、ちょっといいか」
「なんですか、先生」
「おお、こがも一緒か」
「はい、AJ雑記草もここに・・・おーい、jshin。先生が呼んでるぞ。部室に集合だー」

「よし、これで3年生全員揃ったな」
「あれ、JetSet。今日は一番乗りか、いつもは遅刻ばかりなのに・・・」
「先生、もしかして・・・」
「さすがキャプテン、察しがいいな。カッピー」
「なんですか、先生」
「実は今回の大会・・・辞退しようと思っている」
「えっ?」
「どうして・・・」
「なんでですか、先生!」
「落ち着け、みんな。落ち着いて聞いてくれ」
「・・・・・」
「お前達の気持ちはよくわかる。予選を勝ち抜き、やっとの思いで勝ち取った全国大会だ」
「そうですよ、先生!」
「僕たち3年生には、今回が最後のチャンスなんです」
「今年は無観客での大会開催が決定してるじゃないですか!」
「去年はコロナのおかげで大会がキャンセルになって・・・」
「わかっている。お前達の大会に臨むその熱意も十分知っている」
「だったらなぜ・・・」
「オリンピックだって無事に開催できたのに、どうして・・・」
「辞退の理由は・・・コロナじゃないんだ」
「えっ?」
「どういうことですか、先生」
「ついさっき、職員会議で大会参加の是非について議題にあがった」
「・・・・」
「確かにコロナに関しては、様々な対策がなされている。その事に関しては何の異議もあがらなかった」
「だったらなぜ・・・」
「問題は・・・・熱中症だ」
「熱中症?何をいまさら」
「そうですよ、先生。熱中症対策ならバッチリです」
「ベンチにはエアコンもあります。今大会からは試合途中での水分補給タイムも設けられて・・・」
「おまえたち。熱中症を甘く見るんじゃない。オリンピックでは対策の一環としてマラソン開催地が北海道に変更された。しかも気温の低い早朝スタートだ」
「大丈夫ですよ。試合時間はマラソンとほぼ同じ2時間ですが、こっちはずっと走り続けるわけじゃないし、攻撃時にはベンチで休憩できますから・・・なあ、みんな」
「そうですよ、先生」
「マラソンだけじゃない。サッカーやテニスも、医療担当者の助言を踏まえて炎天下での試合を避けている。JetSet、第一戦の開始時間は?」
「午後2時です」
「週間予報ではその日、35度以上の猛暑が予想されている。グラウンドでの体感温度は40度以上。コシーエンのあるゴーヒョ県には、連日のように熱中症警戒アラートが出されている。そんな中でおまえたちにプレイさせることは出来ない。厚生労働省だって、炎天下での運動は避けるよう・・・」
「でも先生、オリンピックでは問題なかったじゃないですか!」
「大きく報道されなかったが、五輪でも熱中症になった選手はいた。手当が遅れれば、選手生命が終わっていたかもしれない」
「・・・・・」
「先発はカッピーだったな。お前はどうなんだ。お前は他の選手と違い、延々と投げ続けなければならない。他の選手だって炎天下にさらされて・・・」
「先生、私なら大丈夫です。私はキュウーヤにすべてをかけているんです。聖地であるコシーエンのマウンドで死ねるなら、本望です。悔いはありません」
「お前はいい。プロを目指すお前はな。コシーエンで活躍すればプロのスカウトの目に留まり、ドラフト指名も夢じゃない。だが他の選手はどうだ?JetSet、お前は来年、就職が決まっていたな」
「はい。ヘラ絞りの工場です」
「お前の夢を言ってみろ!」
「ヘラ絞りの職人になって、0系の団子鼻を作る事です」
「0系?なにそれ?」
「お前は黙ってろ!」
「す、すまん」
「子供の頃からの夢だと、就職相談でいっていたよな」
「は、はい・・・」
「ヘラ絞りについてよく知らないが、かなり繊細な仕事じゃないのか?」
「はい。指先の感触が重要で、一人前の職人になるには10年以上・・・」
「熱中症で倒れて、後遺症が残った場合でもその仕事はできるのか?」
「・・・・・・」
「何言ってるんですか、先生。たかが熱中症くらいで後遺症だなんて・・・そうだよなぁ、みんな」
「あ、ああ・・・」
「そうだよ。熱中症で後遺症なんて聞いたことが・・・」
「先生もそう思っていた」
「えっ?」
「先生もそう思っていたんだ、職員会議の時までは」
「どういうことですか?」
「職員会議で保健の先生が教えてくれたんだ、熱中症の恐ろしさを」
「恐ろしさ?」
「熱中症は暑い環境にいることで熱が体の中にこもり、さらに脱水によって、汗による熱の放散が十分できないために起こる。軽症であれば目まいや立ちくらみ、大量の発汗、こむら返り、筋肉痛などで済むが、重症になると意識障害やけいれん、40度以上の発熱などの症状がおき、最悪の場合は肝臓や腎臓の障害、中枢神経障害後遺症が残ることがある」
「・・・・・・」
「JetSet、もう一度きく。中枢神経障害あっても、ヘラ絞りはできるのか?」
「・・・いい・・え。多分・・・でき・・ま・・せん」
「みんなに訊く。確かにコシーエンはお前達全員の夢だ。その夢のため、どれだけ努力してきたかは顧問である先生が一番よく知っている」
「・・・・・・」
「だがな、その夢はゴールじゃない。お前たちはまだ高校生だ。コシーエンの先に、もっと大きな目標が待っているんだ。キュウーヤのプロを目指す者もいれば、大学へ進学して新たな夢を見つける者もいるだろう。現にJetSetにはヘラ絞り職人と言う夢がある」
「・・・・・・」
「コシーエンという通過点のために、それらをふいにしてもいいのか?」
「・・・・・・」
「カッピー。お前はプロになるという夢のために、JetSetの夢を犠牲にしてもいいと思っているのか?みんなもそれでいいのか?夢を犠牲にするリスクを負ってまで、コシーエンに行きたいのか?」
「そ、それは・・・」
「なぁ・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
「僕たちはただキュウーヤをしたいだけで・・・」
「高校キュウーヤ連盟だって万全の対策は取っているはずだし・・・」
「そうですよ。僕たちに責任転嫁するなんて卑怯ですよ、先生!」
「わかった。先生は何も言わない。JetSet、お前が決めろ」
「えっ?」
「他のみんなはリスクがある事を承知したうえでコシーエンに行きたいと言っている」
「はい!」
「残るはお前だけだ。お前はリスクを承知したうえで、それでもコシーエンに行くのか?」
「・・・・・」
「先生はお前の意見を尊重する。お前がYESといえば全力でサポートする。校長に掛け合ってもう一度職員会議を開き、他の先生方を説得してみせる。高キ連にも試合時間の変更を申し入れ、早朝やナイターでの試合が出来るよう働きかけてみる」
「先生・・・・」
「NOならばそのまま沈黙を貫け。先生の責任において参加は辞退する。いいか、みんな。JetSetがどんな判断をしても、決して恨むんじゃないぞ」「・・・・・・」
「・・・・・・」
「先生・・・・」
「なんだ、JetSet」
「安西先生・・・・・・キュウーヤが・・・したいです」


全国14万の高校球児の様々な思いをのせ、第103回全国高等学校野球選手権大会が始まった。



2020年8月12日追加>

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 参考画像・・・VIPPER速報より


もし試合中に選手が倒れた場合、関係者は「まさか熱中症で倒れるとは思わなかった」と言い訳するのだろうか?リスクを承知で参加したんだから関係ない?健康管理は自己責任?

大会運営側は大きな犠牲が出て初めて「夏季大会について、根本的に見直します」とするのか?

オリンピック東京大会で、世界ランキング2位のテニス選手があまりの酷暑に「(試合中に)死んだら誰が責任を取るのか?」と主審に問いただす場面があった。「大丈夫か?」と尋ねる主審に対し、「試合は最後までできるが、死ぬかもしれない」と答えたらしい。

準々決勝を途中棄権し、車椅子でコートを去る女子テニス選手もいた。他にも炎天下での試合に抗議する選手が多数存在し、主催者側は今後の試合開始時間を(夕刻に)遅らせると発表した。

トップ選手だから主催者側に抗議できる。審判に対し、「死ぬかもしれない」と主張できる。しかし高校生である球児に、それはできない。

真夏の甲子園大会。今回は無観客なので、試合時間変更のハードルは低い。選手の安全を第一に考え、早朝スタート・ナイトゲームの導入、長期的な対策として大会期間の延長・開催時期の変更・参加校数を減らす(各県代表⇒関東地方代表、関西地区代表など)といった具合に、大人が知恵を絞るべきだと思う。犠牲が出てからでは遅い。

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