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傘には、その人の本性が出る。

ある人は花柄の傘をさす。持ち主は女子高生…と思いきや85歳のおばあちゃん。彼女はいつも押し車を引きながら来店し、お弁当をこれでもかと買って帰る。恐らく目が悪いから、もうまともに料理すら出来ないのだろう。しかしこの傘の花柄は何処か気品を感じさせる。持ち手には細やかな細工も施されている。彼女はきっと、昔は街で1番のオシャレな若者だったに違いない。

ある人は地味なビニール傘をさす。持ち主は仕事に明け暮れた忙しいサラリーマン…かと思いきや、近所の進学校に通う女子高校生。彼女はいつも遅い時間に店にやってきては、麦茶と一緒にガムやグミを買って帰る。この年齢はタピオカドリンクの方が飲みたいのではと思うのだが、彼女はタピオカドリンクのある棚にも目もくれず、1本90円のペットボトル入り麦茶を買う。あぁ。彼女はきっと、刹那的楽しみより、毎日を合理的に生きていく術を知っている。賢い娘だ。

ある人は動物キャラクターがついた水色の傘をさす。持ち主は何と仕事に明け暮れたサラリーマン。彼はいつも自転車で来店するのだが、今日はいつもと違う様子。よく見ると我が子を連れてきている。きっと子どもにねだられて、この傘を買うことになったのだ。よく見ると自転車には子ども専用シートが前後についている…いつもお疲れ様です。お父さん

「…あれ」

赤い傘がある。この傘は一体誰のものだろう。

もうかれこれ3ヶ月以上店で保管したものだ。…が、奇遇に私も同じ傘を使っていた。無愛想な店長から気色悪い色だなんて小言を言われたが。

「…自分の、運命の人の傘なら、いいな。なんて。」

そう呟いた瞬間、例の無愛想な店長に呼ばれたので嫌々レジに顔を出す。すると、雨でびしょ濡れの少女が、私に向かって尋ねてきた。


「あの!ここに赤い傘、ありませんでしたか!」


その時、私は私自身を憎んだ。

彼女が、私の運命の人だと思えたからだ。

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