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[雪国]川端康成(1968,11,1)旺文社.236p. ☆☆                            

3段階の評価をつけます。
☆☆☆:読む価値あり
☆☆☆:暇なら読んでも損はない
☆:無理して読む必要なし

ここで挙げた本は、今は無き「旺文社文庫」の1冊です。
川端康成がノーベル賞を受賞した時(私は高校生)に、衝動的に買った本です。
定価はなんと150円。
当時、私自身は川端文学が好きだった訳ではありませんでした。

冒頭の『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。』という、あまりにも有名は始まりから、娘が窓を一杯に開けて駅長に叫ぶ場面に強く引かれました。
少し読み進んだところで、主人公の島村にまったく感情移入ができず、読むのを止めました。

文庫本に付けられていた川端康成の写真も、読むのを止めた一つの理由だったかもしれません。
こんな哲学的な顔をした人が、こんな軟弱な小説を書くのかと、少年は腹を立てたのでしょう。
でも、この本を引っ越しの時にも捨てずにこの歳になるまで持ち続けていたのは、冒頭の場面が忘れがたかったからかもしれません。

主な登場人物は、親の財産を受け継いで仕事らしい仕事もしていない一種の遊び人島村、雪国の温泉芸者の駒子、最初の場面で駅長に向かって叫んだ娘葉子です。
雪国の温泉街やそこの生活、その周辺の自然を背景に、駒子の気持ちの微妙な揺れを描いています。
葉子は、美しい声で歌を歌う天使のような存在。
 
今回は、最後まで楽しみながら読むことができました。
この世とは思われないような不思議な世界をさまよったような読書体験でした。
 
この温泉街のモデルは今では新幹線も通る湯沢温泉で、この小説に描かれた背景の面影は現在ほとんどないでしょう。
失われてしまった世界を旅する感覚に酔えました。
 
歳を取ると、若い時とは違った感性で小説も読めるようになってきました。
歳を取るのも悪いことばかりではないなと思いました。
ちなみに、私は現在72歳ですが、川端康成は72歳で自死しています。


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