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社員が増えても「熱」を下げないために、25年間やってきた試行錯誤

たった2人で始めた会社は、1400人まで増えました。

2人から10人、30人、100人、400人……そして経営統合を経て1400人と大きくなってきた。一方で創業時の「世界を変えるようなスゴいことをやりたい」という僕の思いは1ミリも変わっていません。

ただ人が増えていくと、どうしても最初の「熱」は冷めていきがちになります。どうやってこの「熱」をなるべく下げずに、会社を大きくしていくか?

この25年間、試行錯誤の連続でした。

そこで今回は「熱を下げない組織運営」についてお話ししてみます。

なぜ、組織の熱は下がるのか?

「社員数30人くらいまでは一丸となって進んでいたけれど、30人を超えてきた頃から急にうまくいかなくなった……」

スタートアップの経営層から、そんなことをよく聞きます。

なぜ30人を超えるとうまくいかなくなるのか? それは組織が3階層から4階層になり「縦」と「横」のコミュニケーション不全が起きるからだと僕は考えています。

「縦」というのは、つまり「トップが考えていることが現場に伝わらない」「現場が考えていることがトップに伝わらない」ということ。「横」というのは「隣の部署が何をやってるかわからない」ということです。

これを解決するにはどうすればいいのでしょうか? 僕らが実践してきた施策を7つほどざっとご紹介します。

1、情報や意見を吸い上げる仕組みを作る

30人を超えてくると経営層と現場の距離が離れていきます。そこで重要なのが「1対Nの非同期でできるコミュニケーション」の仕組みを構築することです。

会社が小さいうちは「1対1」のコミュニケーションでもいけます。モチベーションを上げるために対面で話をする。問題が起きたら対面で話をする。少し組織が大きくなると「1対N」のコミュニケーションとして、朝礼や定例のミーティングをするようになります。

でも、それには限界がある。そこで「1対N」かつ「非同期」のコミュニケーションが重要になってくるわけです。例えば社内ブログやSlackでの発信やコミュニケーションなど。

ポイントは「経営層のメッセージを伝える」だけではなく「現場の声を聞く」こと。組織が大きくなればなるほど、放っておくと現場の声が上がってこなくなります。そこで「定期的にアンケートをとる」など意見の吸い上げも「仕組み化」するといいでしょう。

当たり前かもしれませんが、こうしたコミュニケーションがきちんと「仕組み化」できているか確認してみることが大切なのだと思います。

2、「斜めのレポートライン」を作る

組織というのは、縦のレポートラインが強くなりがちです。

上長に報告する。メンバーに指示する。こうした縦のレポートラインは評価にも結び付くため、数字などの定量的な情報の伝達には適しています。でも「本音」だったり、定性的な話はしづらいのではないでしょうか。

そんなときうちでは、ある人たちが動きます。

彼ら彼女らは「ちょっと直接の上司には言いづらいな」といった話があるときに「最近どうなの?」と話を聞きに行きます。上司でも同僚でもない、相談できる相手になる。それが役割です。

いわば縦でも横でもない「斜め」のレポートラインを作るわけです。

彼ら彼女らを、うちでは「HRBP(人事部門のビジネスパートナー)」と呼んでいます。組織課題を現場に寄り添う形で解決するのがミッション。縦のレポートラインで上がってこないような問題にいち早く対応するのです。

HRBPは人事部に所属しつつ、事業部にも兼務で所属しています。そこで部のメンバーと雑談をしたり、ランチをして悩みを聞いたりして、草の根のネットワークを作っていく。アンケートで「モチベーションが下がっている」というような話が出てきたときは、直接の上司が聞くのではなく、先にHRBPの人が聞きに行ったりします。

上司・部下というのは「評価する/される」関係です。それだとあまり本音で話しにくい。そこでHRBPがフラットな関係でサポートに入るのです。

また新卒や中途入社の方向けには、レポートラインではない部署の人がメンターにつく、というのも良い策だと思います。

3、アンオフィシャルな場を作る

組織の熱を上げるには、縦や横などのレポートラインだけではなく縦横無尽のコミュニケーションラインを作ることが重要だと思っています。

そこでカフェスペースやタバコ部屋、社内サークルなどの「アンオフィシャルな場を作る」というのも有効です。

うちには大きなカフェスペースがありますし、大量の本やマンガの置いてある図書スペースもあります。いろんな部署の人が自由に行き交うので、そこでの雑談から仕事の話になったりもします。

社内サークルもかなり活発に活動しています。ボルダリングサークル、野球サークル、スキーやスノボサークルのような運動系から、頭脳ゲームサークル、K-cosme研究会、Handmade&ネイルサークルのような文化(?)系サークルなど多岐に渡るサークルがあり、サークル長がQ毎にメンバーを募集して「斜めのつながり」をつくっています。

さらに金曜日はみんなでピザパーティーをしたり、予算を達成したらチームで飲みに行くお金を会社がサポートしたりもしています。最近だと社内で「夏祭り」もやりました。たこ焼きやビールを用意して、提灯なんかも飾って、けっこう本格的なものでした。当日は食べ物があっという間になくなって、追加で頼んだくらい盛り上がりました。

いかにポジティブな「アンオフィシャル」な場を作るか、というのも熱を下げないためのポイントだと思っています。

4、とにかくオープンにする

情報をとにかくオープンにすることも大切です。

オープンにすれば情報を取りに行かなくてもよくなるし、発信しなくてもよくなります。大切なのは、あらゆる意思決定の「結果」をオープンにするだけでなく「プロセス」をオープンにすることです。

少し脱線しますが、昔『ローマ人の物語』を読んだとき、カエサルが『ガリア戦記』を書いた話が面白いなと思ったんです。

あるときカエサルは、ガリアというローマから遠く離れた場所を攻めに行きました。ローマを統治していたカエサルですが、そうやって遠征するとローマでの影響力は下がってしまいます。

そこでカエサルは口述筆記で『ガリア戦記』を書いてローマに送っていました。戦いのプロセスを共有することで遠く離れたローマでの影響力を保持していたのです。

この話を知って、情報の発信やプロセスの共有がすごく大事なのだな、と思ったのを覚えています。

うちでは経営会議の議事録を社内に共有しています。どうしても機微に触れるような情報があったりもするので全ては公開できませんが「今日はこういうテーマで議論したよ」とオープンにしています。

情報をクローズドにして現場メンバーに余計なことを考えさせない、といったマネジメント手法もあるでしょう。

でも僕は、そういうのは好きじゃない。

できるだけオープンにして、そのうえでひとりひとりが当事者意識を持って、自発的に考え、行動できるチームにしていきたい。

それに今は市場環境が大きく変化しています。現場でも意思決定を迅速に行い、臨機応変に対応していかないといけないような時代です。そういう中で「クローズド」のスタイルではうまく回らないと考えています。

5、アワードをやる

うちでは半年に一度「アワード」をやっています。

いわゆる表彰をするわけですが、重要なのは表彰された人が壇上で感極まって泣いて喜ぶくらいエモいものにすることです。そしてそれを見ている人も「あ、ほんと、あの人よかったな」「頑張ったんだな」と一緒になって喜べる。さらには、それを見て「ほんとは俺があの場に立ちたかった」と悔し泣きするくらいの人が出る。

そうやって「心を動かすようなイベント」が熱量につながっていきます。

感動するようなアワードにするためのポイントは「賞状」です。賞状に「その人が、どういうところで、どんなふうにがんばっていたのか?」を具体的に書くわけです。ツルっとのど越しよく通り過ぎてしまうありきたりの言葉ではなく、心に摩擦を起こす言葉で。

たとえば「俺はお前のあのときの言葉を覚えてるよ」「でも、あのときこんな失敗もあったよね、でもお前はそれを乗り越えて……」などと書く。すると壇上で賞状を受け取った人は「え、あのときのこと、まだ覚えててくれたんだ! 見ててくれてたんだ!」となって感動します。そして、それを読む上司の側も感極まっていたりします(笑)。

ベタですが、演出も重要です。

表彰をふつうにオフィスの蛍光灯の下でやってもそんなに気分は盛り上がらない。そうではなく、できればホテルの素敵な会場で、暗い中スポットライトをパンと当てて、レッドカーペットの上を歩いて壇上まで上ってもらう。そういうテンションが上がる演出をすると、否が応でも気分は高まります。

ベタだなと思うかもしれませんが「仕事だからやる」のではなく「本当に感情を揺さぶるようなイベント」を本気でやります。これができれば、かなり効果的です。

6、シンプルにする

冒頭でもお伝えしたように、結局コミュニケーションは、4階層とか5階層になってくると「伝言ゲーム」になっていきます。

複雑なことを伝えようとすると途中で薄まったりメッセージが変わっていってしまう。そこで重要なのがシンプルなメッセージにすることです。

全社目標やスローガンについても誰もが覚えやすくわかりやすいものにすることが重要です。

シンプルにするからこそ、日々活動するなかですべてのメッセージに矛盾がなくなり、一気通貫しやすくなります。矛盾がなくなると、ひとりひとりの日々のアクションにおいて悩むポイントが減り、みんなのベクトルが一致しやすくなり、組織としての一体感が生まれやすくなります。

戦略にしても「複雑怪奇な戦略」では実行できません。

事業責任者とは毎年定期的に事業計画をディスカッションしますが、そのときに「あれも大事、これも大事、あれもやります、これもやります」と長々と説明されてもさっぱり頭に入ってこない。そこで僕は「で、キモはなに?」「勝ちスジはなに?」とよく聞いています。

複雑な戦略を複雑に説明するのではなく、いかに本質を捉えたうえでシンプルでわかりやすい言葉で説明するかが重要です。

シンプルにすることは組織の熱量をあげていくだけでなく、実行可能性を最大化することにもつながると思っています。

7、自社の魅力を自分の言葉で語ってもらう

僕は何年かサイバーエージェント(CA)の役員を務めていましたが、CAは本当に経営理念が浸透している会社です。「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンが社員一人ひとりに浸透していました。

CAの採用面接に同席することもありましたが、そのとき「なんでサイバーエージェントに入ったんですか?」と面接官が聞かれると「21世紀を代表する会社を創りたいんですよね!」「20世紀のソニーやトヨタのような、そういう会社を僕らは創りたいと思ってるんです!」ということを社員が自分の言葉で、本心で、語っていたのです。

このとき、自社のビジョンや自社の魅力を自分の口で語ってもらうというのは、初心を思い出してもらう上でも有効なのだなと思いました。

経営者は取材などで「なぜ起業したのか?」とよく聞かれます。話しているうちに「ああ、僕はこういう使命でこの会社をやっているんだ」と、どんどん自己洗脳が進んでいくような面もある(笑)。でも現場の社員は普段はそんな質問をされる機会があまりありません。

そこでうちでは現場の社員に面接に出てもらうようにしています。人事も当然面接に入りますが、それはわりと最終に近い部分です。それまでは事業サイド、現場サイドの社員が面接をするようにしています。

特に新卒面接に入ると学生さんからいろいろなことを聞かれます。すると改めて「なんで自分はこの会社に来たんだっけ?」「そもそも何がやりたかったんだっけ?」「うちの会社のいいところって何だっけ?」と考えるようになる。初心を思い出すいい機会になりますし、ピュアな気持ちになります。

面接は「熱」を取り戻すいい機会になるんです。

100人を超えた頃、ピンチが訪れた

よく「30人の壁」と言われますが、実は僕らがぶつかったのは「100人の壁」のほうでした。メンバーが100人を超えたあたりで、意思決定のスピードが明らかに遅くなり、停滞感が出てきてしまったのです。

最後に僕らがどう「100人の壁」を超えたかをご紹介して終わります。

社員数が100人を超えてきたのは、2005年頃。

当時のメイン事業は「ECナビ」でした。ライバルは「カカクコム」です。カカクコムに勝とうと必死で組織を拡大していました。しかし一向に追いつけないばかりか、どんどん差は開いていくばかり……。

はるか先を行く競合を見て奮闘していると、気づけば「WEB2.0」の時代に突入しました。ふと足元を見ると新興の小さなベンチャーがどんどん出てきていた。カカクコムに追いつくどころかスピード感をもって新しいサービスを次々に生み出していくベンチャーにも追い抜かれそうになっていました。

図体だけデカい「恐竜」になっていた

人数が増えて組織が5階層くらいになると、営業部は営業のことだけを考えるようになっていきます。他の部署の状況をあまり考えなくなる。同じように、開発部も、コンテンツ運用部も.......そうやってどんどん「サイロ化」が進んでしまっていました。

と同時に、一部の部長は他部署の会議で決まったことに対して「それ俺、聞いていなんだけど」と言い始める始末。するとまわりの人は気を遣って、これまで以上にたくさんの人を会議に呼ぶようになり、会議のなかで「調整」という言葉が頻発するようになりました。結果、何も決まらない会議がどんどん増えていったのです。

このときの会社の状況を例えるなら、こんな感じです。

恐竜の図体がどんどん大きくなっていったけれど、氷河期で寒くなってきた。「あれ?」と思って足元を見ると、小さな哺乳類がうじゃうじゃいた。

これまで「大きい恐竜とどう戦うか?」を考えていたのですが「小さい哺乳類とどう戦うか?」を考えないと生き残れなくなったのです。

30人ごとの組織に再編する

そこで実践したのが「100人でひとつ」だった機能別の組織を「最大30人」の事業部ごとに分割することでした。

いわゆる「事業部制」に移行したのです。

これまでの経験から、30人までの組織であればその当時のマネジメント力であってもスピーディーに動かすことができるとわかっていました。

事業部長や子会社の社長が30人の組織をまとめて、素早く意思決定をする。さらに、その上の事業部長や子会社の社長を僕がマネジメントする。

すると、これまで複雑だった5階層の組織は3階層のシンプルなものになり、その結果、狙いどおり組織内での余計な調整が少なくなり、意思決定のスピードは一気に高まりました。

もちろん「100人以上になったら30人に分ければいい」という単純な話ではありません。当時は100人以上の組織を運営していくマネジメント能力が僕を含めた経営陣にはなかったのです。「ならば、30人ごとの組織に再編して3階層に戻そう」と思ったのです。

すべては「世界を変えるようなスゴいこと」をやるために

熱を維持しながら、いかに会社を大きくしていくか?

その試行錯誤は続いています。というか、これからが挑戦でもあります。

2019年には約400人の「VOYAGE GROUP」と約1000人の「CCI」が経営統合し「CARTA HOLDINGS」という1400人の会社になりました。

1400人の組織を、どうやって熱のある強い組織にしていくか? そのチャレンジの真っ最中です。

そもそも両社はカルチャーが違いました。カルチャーの異なる大きな2社をひとつにする難しさを日々感じています。

経営統合してもうすぐ6年ですが、本当にあっという間でした。当初はお互いに言葉が通じない、まるで外国どうしのような状況だったこともあり、いろんなハレーションや問題が起きました。

それでもなぜやるか?

それはやっぱり、やりたいことがあるからです。その先の未来を信じているからです。ハレーションが起こるのを恐れてやらないよりも、起こるであろうことを想定しながら極力起きないようにどうコミュニケーションするか。そこで何かが起きてしまったら、その影響がなるべく他に伝播しないよういかに対応するか。

「世界を変えるようなスゴいこと」を成し遂げるために、僕らの挑戦はまだまだ続きます。

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