書き順って覚えなきゃいけないの?
ある日、娘が落ち込んだふうで帰ってきた。
担任の先生から書き順の間違いを指摘されたのだという。
「何で書き順って覚えなきゃいけないの?」
うーん。
わからないでもない。
字なんて読めればいいと思っている私は
どちらかというと娘の方に共感できる。
でもまあ、事実は伝えておく必要があるだろう。
「書き順ていうのはさ、大昔からたくさんの人が字を書いてきて、こうしたら書きやすいな、キレイに書けるな、ていう順番なんだよ。」
「…うん」
「別に書き順通りに書かなきゃその字がダメとかじゃないんだけど、書き順通りの方がキレイに書きやすい部分はあると思う。だから、何回かは試してみた方がいいんじゃないかな?」
「わかった。」
「その上で、どうしても書きづらかったら好きなようにして大丈夫だよ。」
娘は微妙な顔をしていた。
まだいくつか、ひっかかることがあるのだろう。
「先生には指摘されるかもしれないけどね。まあ先生はそれが、仕事だから。」
「仕事?」
「そうそう。ホントは先生だって読める字なら困らないんだろうけどさ、『正しい書き順を教える』っていうのが仕事なんだよ。だからそれはまあ、しょうがない。」
「そっかぁ。」
幼い子は大人は全て自分のために動いてると考えるようなところがある。
怒るのは自分をよくしたいから。
優しくするのは自分が好きだから。
意地悪するのは自分が嫌いだから。
でもホントは、先生だって、母親だってただの人間で、いつでも誰かのために動いているわけじゃない。
「でもさぁ、書き順間違えてて困ることってホントにないの?」
娘は先生の件に納得したからかまた別の疑問を出してきた。
「一個だけ、困ることがあるね。なんだと思う?」
「お仕事のとき?」
「残念!お母さんは仕事で字を書くこと自体全然ないよ!」
「テストのとき?」
「まあ、字のテストならいるかもだけど大体大丈夫!」
「えーわかんない!」
わかんないだろうなぁ。
私だって最近知ったのだ。
「正解はね、教えるとき。」
「?」
「子供に『この書き方でいいの?』って言われたときが、唯一困ったよ。おかあさんは。」
なんだぁ、と娘は笑った。
娘に書き順を尋ねられて
慌てて確認したら違ってたときの驚きなんて
まだ想像できないよなぁ。
それからというもの、私はすべての字の書き順に自信が持てなくなってしまった。
調べてる間、待ってる娘に感じる申し訳なさも娘にはわかるまい。
勉強って、どこでどう役に立つか本当にわからない。
大人になってどんどんそう思うことが増えてきた。