ほにゃほにゃ
百均のレジに並んでいたら見知らぬおじさんが横から「ねえ俺の名前の印鑑どこ?!」って割って入ってきた。
そうです「皆さんご存知の」「巷で噂の」「地元に愛され60年」みたいな表情をしている。
何にも気がついていないおじさんに、店員さんが「あの…お名前は?」と訊ねてようやくハッとした顔をし、頬を赤らめ蚊の鳴くような声で苗字を名乗っていた。
頭のなかで考えていたことを、ぼんやりしているとうっかり口に出してしまうこと。
私にもある。
OL時代は上司のことを「おかあさん」と呼んだこともあるし、今は夫のことを犬の名前で呼んだりもする。
言ってしまったあと、ちょっとドキッとしてしまう。別に全然秘密のことではないのに、「やば!」と思う。
何にも悪いことしてないのにパトカーのサイレンが聞こえると、真人間ですという顔で歩いてしまうときのような。
坂元裕二さんのドラマで「大丈夫?って聞かれたら、大丈夫だったことは一度ないのでそういう意味では大丈夫です」というような台詞があってもうビリビリと痺れた。
坂元裕二さん、そういうところが好きです。
頭のなか、心のなかにあるのに、まだ言葉にもならない、いや言葉にするつもりもなかった言葉を聞くと、やっぱりドキッとしてしまう。
きのう、友人に「相手を慮るあまり、自分がいつの間にか消耗してしまうときない?」「原因はやはり期待でしょうか」というような会話をLINEでした。
「期待もあるだろうけど、めぐちゃんは努力したんだよね。でも本来の慮るって努力はいらないんじゃないなぁ。努力するから消耗しちゃうんじゃないかなぁ。」と返信がきておしり丸出しの気持ちになった。
友よ、こういうところが好きだよ。
“誰かに嫌われたくないって自分”
“恥をかきたくないという自分”がいる。
もう何度もバイバイをしたのに、ここでさようならね!と告げてきたのに、気づけばヒタヒタと私の後ろをついてくる。
めそめそと泣いたり、ときにぎこちない笑顔で「あたしはだいじょうぶ!」と努力して奮闘する。鬱陶しいな。
「はーーめんどくさー」という私に、「でも人に嫌われたくないって生存本能だよね。」と返信がきた。
「ひとりきりでは生きていけない。持っていないとサバイブできなかった自分がいたんだよ。」と。
言葉もない。
泣くばかり。
そんなやりとりのあとは気持ちよく食器を洗った。
もこもこ膨らむ泡が汚れを落としながら流れてゆくのを見ていたら、いろんなことに感謝の気持ち気持ちがあふれてきて
「あ〜ありがとう」とぽつりと独り言が出てしまった。
すると気がつくと後ろに立っていた夫が「こちらこそ」と返事をしてきて、私の「ありがとう」は思わぬところですぐキャッチされ、最速で返ってきた。
へんなの、でも笑う。
ほにゃほにゃのこの感覚と言葉が繋がるとどうやら面白いことが起こるらしい。