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ヌシと夏生

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2020年 第10回ポプラ社小説新人賞1次選考通過作品を、少しずつ手を加えたりしながら公開します。ぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。 【あらすじ】 編集プロダクションからIT…
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記事一覧

小説『ヌシと夏生』19_テルテル坊主

「こんにちは」と、周囲に会釈をしながら、猫が一番奥の窓際のベッドに向かう。 「やあ来てく…

うさぎ坂
2日前
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小説『ヌシと夏生』18_テルテル坊主

テルテル坊主わせっか、わせっか……。 小さな声で誰かが掛け声をかけている。わせっか、わせ…

うさぎ坂
4日前
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小説『ヌシと夏生』17_化け猫

猫の店にたどり着いたときは、ヌシも夏生も息を切らしていた。こんなにまじめに走ったのは久し…

うさぎ坂
6日前
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小説『ヌシと夏生』16_化け猫

「……ここ、ご主人様のお店だったの。私はそこのほら、端っこのイスに座って、ご主人様がお酒…

うさぎ坂
10日前
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小説『ヌシと夏生』15_化け猫

「遅かったな」 玄関を開けるとヌシが立っていた。お地蔵さまも玄関に立っている。 「何をし…

うさぎ坂
13日前
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小説『ヌシと夏生』14_化け猫

原稿整理に飽きると、夏生は会社を出て電車に乗った。 夕暮れの街並みが、眼下を通り過ぎてい…

うさぎ坂
2週間前
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小説『ヌシと夏生』13_化け猫

「何しろ君は神の使いだからな。神がいなくなったらその神に恨みを持っていた輩が一斉に襲い掛かる。野良の使いは格好の餌食だ」 「そんな……。ヌシはそんなにあちこちで恨みを買っているのか?」 「わざわざ恨みを買うつもりはなくても。強い力を有していれば、存在するだけで弱きものをつぶしてしまうこともある。悪気はなくても。私を倒して名声を上げたいという輩もいるかもしれない」 確かに、ヌシは強い。それはもう夏生自身、何度か目にしている。しかし、ヌシを倒して名を上げたいという輩がいるほ

小説『ヌシと夏生』12_化け猫

化け猫「ところでヌシは何の神様なんだ?」 龍の刺繍の入ったスカジャンを羽織って鏡の前で、…

うさぎ坂
3週間前
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小説『ヌシと夏生』11_ろくろ首

そう女が叫んだとき、ふっと首の力が緩んだ。思い切り引っ張っていた夏生の体がバランスを崩し…

うさぎ坂
3週間前
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小説『ヌシと夏生』10_ろくろ首

「……失礼しました。厚かましくて、すみません」頭を下げる夏生に「いえ。こちらこそお嬢さん…

うさぎ坂
3週間前
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小説『ヌシと夏生』9_ろくろ首

返す言葉はない。まだ会社に籍を置いているとはいえ、完全な窓際だ。直属の上司である美津さん…

うさぎ坂
3週間前

小説『ヌシと夏生』8_ろくろ首

「ちょっと待て」と夏生がヌシを制する間もなく「初回のご相談は、つまり今ですね。こちらは三…

うさぎ坂
1か月前
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小説『ヌシと夏生』7_ろくろ首

ろくろ首「あなた……?」 会長室に入ったヌシを見て、美津さんが声をあげた。 いつも物静か…

うさぎ坂
1か月前
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小説『ヌシと夏生』6_地蔵

足が震えて、まっすぐに立てない。体全体が小刻みに震えて自分の意志では止められない。 券売機に突っ込んだまま、お地蔵さんの体が小刻みに揺れはじめた。刺さった頭を抜こうとしているのか?痙攣するように震えている。 「行くよ」 少女に手を引かれるまま改札を抜け、誰もいないホームに立った。ホームの上には何もなかったかのような、静かな、田舎の空が広がっている。全身から汗が噴き出した。 「今のは?」 少女の背中に隠れるように、改札の外をそっと窺うけれど何も見えない。振り向いた少女