小説『ヌシと夏生』16_化け猫
「……ここ、ご主人様のお店だったの。私はそこのほら、端っこのイスに座って、ご主人様がお酒を注いで、お客さんたちと楽しそうに話すのを見てたわ。皆でご主人様の引くギターに合わせて歌ったり。本当に幸せだった」
女性が遠くを見るような目をする。
グラスに自分でウォッカを注ぐと、「健康に!」と叫んで、クッと飲み干した。
「クー」っと喉を鳴らすと、ヌシの頭に手を当てて、臭いを嗅いでいる。ヌシはされるがまま、頭を差し出して笑っている。
「……でも、ご主人様も年を取って。病院に入ったの。