苔生活
2月に買ったミニ苔盆栽を育てている。まだ枯れてない。
もっこりと小さな鉢に膨らんで、なんとも愛らしい。この上に寝転んだら柔らかそうで、とても気持ちよさそうと思う。親指と人差し指で摘める小さな盆栽に、夢を見る。
毎朝夕と霧吹きでシュッシュして、カーテン越しに日がな日光浴させるだけの世話しかしていないが、見ていると妙に眠くなるというのは、癒されているということなんだろうか。
誰かの世話をするというのは、一人暮らしになるとなくなる。
自分一人の生活になるから、当たり前と言えば当たり前。
家族と一緒に暮らしていた頃は、とにかく始終家事という名で、誰かの世話をしていた。
「やらなくていいよ。やってくれたら嬉しいけど」
という謎なダブルバインドに縛られて、カリカリキリキリして一年中ストレスを抱えていた。
一人暮らしを始めて、自分一人の時間の楽しさ。快適さを知ると、もう誰かと暮らすのは無理だなと思う。
誰かの世話がもう懲り懲りだというより、自分の性にあわないなと思う。誰かの世話をする、誰かのために仕事をすること自体は今でも嫌ではない。でも、私は性格として徹底的に、完璧に、抜けなくもれなくを、際限なく追求してしまいがち。家事というものに、終わりも完璧もないのに。
誰よりも早く起きて、お湯を沸かしたり、食洗機の食器を片付けたり、食後は食器やらフライパンやらを片付けたり。
なんだかんだ、ずっと休憩する間もない。主婦(夫)でもないし、家政婦(夫)でもないし、母でも父でもないのに、自分の時間が全くない。給料が出るわけでもないし、労りの言葉を貰うわけでもない。
植物なんていつか枯れてしまうから、家が華やかになるより、枯れた時のしょんぼりや、枯らした自分への罪悪感で、絶対やだと思っていた。
苔も本当は諸手を挙げて、育てたい!と思って買ったわけではない。
苔は枯れにくいらしいし、「ミニ」苔盆栽なら、枯れた時のショックも小さいかも。そんな打算があった。
ミニ苔盆栽への出費は、ミニ苔盆栽自体を買った800円くらいと、時々ドボンと浸水させるための小さなプラスチックのボウルを100均で買ったので、それだけ。霧吹きは元々家にあったし。
この小さな盆栽は、不精で怖がりな私にはちょうどいいらしい。
家に緑があると心和むという感覚は未だによくわかっていないけど、小さな苔に毎朝夕霧吹きするのが、なんとなく楽しい。もっこりとふくふくしている、柔らかな苔が可愛い。
たぶん、このミニ苔盆栽が枯れてしまったら、とても悲しい。いつまでも仲良くしたい。